ボクシングWBO世界スーパー・フェザー級王者伊藤雅雪(28=横浜光)が25日(日本時間26日)、米フロリダ州キシミーで元五輪戦士の同級7位ジャメル・へリング(33=米国)との2度目の防衛戦に臨む。昨年7月に同地でクリストファー・ディアス(24=プエルトリコ)からダウンを奪って王座決定戦を制し、約1年ぶりに験のいいキシミーに戻ってきた。12年ロンドン・オリンピック(五輪)に出場した実績を持つ長身サウスポーの挑戦者とのV2戦は決して楽観視できないカード。12回防衛を誇る元WBC世界バンタム級王者山中慎介氏(36)が試合展望を予想した。

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-昨年7月のディアスとの試合を振り返って

山中氏 試合前、伊藤選手は「積極的に行く」と言ってはいましたが、正直いって本当に行けるのかどうか疑問に思っていたところはあります。でも、予想以上に積極的に攻めて出たので驚きました。以前とは気持ちが違ったんでしょう。

-昨年12月の初防衛戦も解説を務めてましたが、どう成長を感じたか

山中氏 世界タイトルを獲得したときよりも、さらに強くたくましくなりましたよね。自信をつけたこともあって、一段と成長してすごみを増したと感じました。自分で志願して海外でトレーニングしているほどなので、本当に強くなりたいという思いがあるんでしょう。その強い気持ちがリングの上でも出ていますね。

-伊藤はどんな選手

山中氏 まず見た目がイケメンですよね(笑い)。で、ボクシング以外では優しい性格です。ボクシングに関しては東洋太平洋チャンピオン時代もシャープな面はありましたが、最近はそこに攻めて出る姿勢と力強さが加わりました。

-攻めて出る姿勢とは

山中氏 最近の世界戦2試合は気持ちが前に出ているので、以前よりも重心が少し前にかかるようになっているんですよ。それがパンチに伝わる力になっているので、重み、威力、強さやすごみにつながっているんです。前に出ながら繰り出すパンチと下がりながら打つパンチでは体重の乗り方が違いますからね。それに伊藤選手は世界チャンピオンという現状に満足していないし、もっと上に行きたいという思いが見えますね。だからキラキラしているんじゃないですか。

-アマ経験がないままプロになった伊藤の潜在能力は

山中氏 まだ28歳でしょう? 今の時代でアマチュア経験がないままここまで来るだけでもすごいことだと思います。特別な運動能力、センスがあるんでしょう。まだ開発されていない能力、伸びしろがあると思います。

-アマ経験がない部分の不安面は

山中氏 サウスポーとの戦い方に関してはどうなのか、そのあたりが気になります。アマチュア出身者の場合、仮にプロでサウスポーとの対戦経験が少なくても戦い方に慣れていることが多いものなんです。でも、アマチュア経験がない選手の場合、サウスポーとの戦い方に不慣れなことがあるんです。これまでに伊藤選手がどれだけ力のあるサウスポーと戦ってきたか、そしてどう戦うか、そのあたりが気になりますね。

-へリングは長身のサウスポー。

山中氏 しかもオリンピックに出場しているんですよね。長身サウスポーというだけで戦いにくく敬遠されがちなのに、加えてオリンピックに出ているほどの実力者というわけですから、ちょっと厄介かもしれないですね。

-現役時代の山中氏は長身サウスポー。自分よりも少し背の低い右構え選手と対戦する際のカギとは

山中氏 僕の場合は距離を一番大事にしていました。こちらのパンチは当たるけれど相手のパンチは届かない、その距離から踏み込んで打つわけです。右構えの相手との試合では利き手、つまり僕の左手、相手の右手を気にして戦いました。すでに構え合ったときの位置は相手の左フックが当たらない距離なので、踏み込んで打ってくる右を警戒しました。へリングが僕と同じスタイル、考えかどうかは分かりませんが…。

-伊藤の注意する点は

山中氏 伊藤選手にとってへリングは戦いにくいタイプかもしれないけれど、攻めていく姿勢が重要になるでしょうね。まして伊藤選手は注目されているなかでアピールしたいはずなので。警戒する相手のパンチとしては、右ジャブから絶妙なタイミングで放たれる左ストレートでしょうか。その左に注意しながら、パンチの軌道やタイミングを見極めて攻めていくことが要求される試合になると思います。ときには強引に攻めて出なければいけない場面もあるかもしれませんね。

-伊藤にエール

山中氏 スーパーフェザー級には海外でも人気と実力のある選手が集まっているので、伊藤選手はただ勝つだけではなく内容も問われる立場になっていますよね。だから「また伊藤の試合を見たい」と思わせるような戦いをしてもらいたいですね。彼は(3階級制覇王者)ワシル・ロマチェンコ(31=ウクライナ)との対戦を目標にしているんでしょう? その目標設定はすごくいいと思います。ロマチェンコの名前を出したとき、伊藤選手はすごくギラギラしていましたから。強がっているのではなく、ワクワクしている感じでした。挑戦する気持ちを忘れていない証拠だと思います。だから、今回もみんなの期待に応えるような勝ち方をしてほしいですね。

 

◆テレビ放送 WBO世界スーパーフェザー級タイトルマッチ12回戦、王者伊藤雅雪(横浜光)-同級7位ジャメル・ヘリング(米国)は26日午前11時からWOWOWライブで生中継