新日本プロレス恒例の東京ドーム大会が来年は史上初めて1月4、5日の2日連続で開催される。日刊スポーツでは「夢のドーム2連戦」と題し、大会の見どころを連載する。

第1回は今大会で引退するレジェンド獣神サンダー・ライガー。引退への思いや両日の試合に込められたストーリーなどを語った。【取材・構成=高場泉穂】

世界の獣神が31年のプロレス人生を終える。引退を決めたのは3月のIWGPジュニアヘビー級タイトル戦のまさに最中だった。王者石森に敗れ「試合の中でもう…。おれは手持ちの駒だけを並べ替えて勝負している感じ。だけど、石森くんはまだまだ駒を集められる。やっぱ強い」。

激闘を繰り広げたが、20年ぶりの返り咲きに失敗した。常にトップを目指すという美学をこれ以上貫けないと判断し、翌日引退会見を行った。「会社の人もびっくりしてたし(相談役の)坂口征二さんも『おれに相談なしに決めやがって』と」。そして、デビューした東京ドームを引退の舞台に決めた。

ドーム最後の2戦にはライガーの歴史とプロレスへの思いが詰まっている。4日の8人タッグマッチでは新日ジュニア戦線を彩ってきた歴代の選手が集結する。組むのは藤波辰爾(66)、ザ・グレート・サスケ、4代目タイガーマスク。プロレスラーになるきっかけは藤波だった。小学校の時、書店で藤波がベルトを持つ表紙のプロレス雑誌を見かけて、「うわー、かっこいい。こういう風になりたい」と一目ぼれ。それがすべての始まりだった。

みちのくプロレス創設者のサスケは、ライガーが94年に起案したジュニアの大会「スーパーJカップ」に賛同し、協力してくれた恩人。「彼の助けがなかったら成功できなかった」。選手としても認めるライバルだった。「いまは気功をとばすからよくわかんないけど(笑い)。ひと昔前は飛んでよし、ああ見えてグラウンドもうまいし、本当に万能選手でした」。

4代目虎は仲人も務めた、かわいい後輩。「虎ちゃんの子どもに『福岡のじいじ』って言われてるぐらい公私にわたる付き合い。彼は佐山さんの愛弟子。だから、新日本気質が根底に流れている。真面目で、よく練習する。ちょっと強情すぎない? って思うぐらい。まだまだ老け込む年じゃないので、がんばってほしい」、最後に新日ジュニア最年長のバトンを渡す。

対するのは佐野直喜(54)大谷晋二郎(47)高岩竜一(47)田口隆祐(40)。佐野がいたからこそ今のライガーがある。ライガー誕生直後、頭にちらついていたのは初代タイガーマスク佐山聡の姿。「あんな超人的な動きはできない。どうすればいいか」と悩んだ。試行錯誤する中で、ヒントをくれたのが同期の佐野だった。「自分をぶつけるしかないやん。難しく考える必要ない、と。それを言葉じゃなく、試合を通して教えてくれた」。

現在ゼロワンに所属する大谷、高岩は90年代に新日ジュニア戦線をともに盛り上げたライバル。「金本(浩二)、(ケンドー)カシン、(エル)サムライとか、みんなそう。一癖も二癖もある人間がぶつかりあってるんだからね。毎日発見があったし、毎日とんがってたし、充実してた。ほんとにガチガチ。当時、あいつらも若いからがんがんくんのさ。あいつらはあの時も、今でもずっとトンがってる」。田口は天才と認める後輩。常におどけた動きでリングを盛り上げるが「(ベルトへの)貪欲も見せてほしい。できるんだから」と最後の試合で叱咤(しった)激励するつもりだ。

ラストマッチでは佐野と組み、メキシコのリュウ・リー、高橋ヒロム(30)のジュニアトップ2人と戦う。12月に首のけがから1年5カ月ぶりに復帰した高橋は4日にIGWPジュニアヘビー級王者オスプレイに挑戦。王者として5日のリングにあがる可能性がある。「引退する選手が王者とするってないよ? だから本当にうれしい。逆にぼくが彼らにプレッシャーをかけている。俺が勝ったらお前らどうすんの? 引退撤回するよ? と(笑い)。それぐらいの覚悟で来い。バチバチだよ」。平成元年に生まれたライガーが令和最初のドームで、炎を燃やし尽くす。

◆獣神サンダー・ライガー 1989年(平元)4月24日、漫画家の永井豪宅で誕生。同日、東京ドームでの小林邦昭戦で獣神ライガーとしてデビュー。同5月、IWGPジュニアヘビー級初戴冠。以来99年まで11度の戴冠は史上最多。得意技はライガーボム、ロメロ・スペシャル、掌底など。趣味は食虫植物栽培、怪獣フィギュア制作。170センチ、95キロ。血液型はAB。