23日に22歳で急死した女子プロレス団体スターダムの木村花さんは、将来を嘱望された選手だった。華やかな見た目とギャップのある荒々しいファイトが多くのファンを魅了した。そして、新しい女子プロレスラーのあり方を探っていた人でもあった。

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木村花さんには華があった。明るい性格で礼儀正しく、多くの人に愛された。木村さんの死去を受け、新日本プロレスの“100年に一人の逸材”棚橋弘至(43)は23日、ツイッターでこう記した。「スター性があって、人を惹きつける。間違いなく女子プロレス界の未来を背負う選手でした」。世界中の選手やファンが追悼のメッセージを発表した。これからスターの座に駆け上がるはずの人だった。

木村さんを初めて取材したのは、W-1からスターダムに移籍した19年春。ピンクの髪に大きな目。派手な衣装と堂々としたふるまい。リングに立つだけで絵になる選手だと思った。同4月にはリーダーとして、ユニット「TOKYO CYBER SQUAD(トーキョーサイバースクワッド)」を結成。光るガスマスク、蛍光色のファーなどを身にまとう、おしゃれなヒールキャラがすぐに定着した。

デビューからまだ数年。特別技術が高いわけでも、運動神経が優れているわけでもない。その代わり、1つ1つの技に力強さがあり、感情むき出しで戦う姿が魅力だった。印象に残るのは、昨年12月24日後楽園大会でのジュリア戦。インドネシア人の父を持つ木村さんは、イタリア人の父を持つジュリアが11月に入団して以来“ハーフ抗争”を繰り広げていた。迎えた初対戦。ゴングと同時にエルボーの打ち合いとなり、ゴンッと音が鳴るほどの頭突き合戦に発展。結局、時間切れ引き分けとなったが、2人の荒々しい戦いに会場は沸いた。ライバル物語は今年も続くはずだった。

木村さんは新しい風景を思い描いていた。かつて日本には女子プロレスブームがあったが、90年代後半以降は人気が下がり、今は主に年配の男性ファンに支えられている。だが、昨年からスターダムは特に新規女性ファン獲得に乗り出した。団体関係者によれば、木村さんは団体の中でも1番女性ファンが多かったという。会場で木村さんのコスプレをした少女もいた。同11月28日、都内で行われた会見で木村さんは女性ファンについてこう話していた。

「元々こういう見た目なので、日本人男性受けしないというのは重々承知していて…。メークはドラァグクイーンの方を参考にして、男性受けを一切無視したビジュアルを普段からしている。でも、それによって、女性から『かわいい』っていう声を頂いたり、メークをまねしてもらったり、『髪の毛がピンクだから見に来ました』って子もいたりする。女性目線で物事を考えているので、女性ファンの方を増やしやすいのかなと思います」。5月6日に開催予定だった初の女性ファン限定興行が決定した時、木村さんは「夢がかなった」と大変喜んでいた。

「テラスハウス」出演は認知度アップだけでなく、業界の旧体質を変える狙いもあった。「この職業をしていると、恋愛は大っぴらに出来ないとか、日本ではまだまだあると思う。私が出ることによって、男性ファンの前でも女性ファンの前でもオープンに恋愛をしていけたら」とありのままの姿を見せようとしていた。偏見にとらわれず、自由な考えを持つ木村花という選手は、新しい女子プロレスの象徴にふさわしかった。【高場泉穂】

 

◆木村花(きむら・はな)1997年(平9)9月3日、横浜市生まれ。母は元プロレスラー木村響子で父はインドネシア人。15年に武藤敬司主宰団体「WRESTLE-1」のプロレス学校に1期生として入学。16年3月に才木玲佳戦でデビュー。フリー、ACE、W-1を経て、19年3月にスターダム入団。ユニット「TOKYO CYBER SQUAD」を率い、活躍していた。164センチ、58キロ。得意技タイガーリリー、ハイドレンジア。