ボクシング世界4階級制覇王者でWBO世界スーパーフライ級王者の井岡一翔(32=Ambition)が19日、都内で会見を開き、ドーピングなどの薬物騒動について「私は禁止物質を摂取していません。今回このことが立証されました」と潔白を証明した。

井岡は昨年大みそかの田中恒成とのWBO世界スーパーフライ級タイトルマッチ前にドーピング検査を受け、A検体から大麻成分、その後、B検体の一部からエフェドリン、フェネチルアミン、チラミンの禁止薬物が検出されていた。残りのB検体一部は本来、井岡側が潔白を主張した場合の再検査のために必要だったが、JBCから警察に提供されたことで、結果的に再検査が不可能な状況となっていた。

井岡側は、今月11日に服部真尚弁護士を通じて「規定違反は認められず、精査処分を行わない」との決定を求める意見書を倫理委員会に提出。18日に同委員会は答申書を提出し「検体中に禁止物質が存在したと認定することは困難。さらに(警視庁に渡った)B検体の再検査が不可能であり、井岡の権利が保障されていないという重大な手続き上の瑕疵(かし)がある」と結論づけた。これを受け、19日午後、JBCが先に会見を開き、井岡側に処分を行わないことを発表していた。

井岡と会見に同席した服部弁護士は「大麻についてはB検体で偽陽性となっており、もともと検査の対象外。エフェドリンは普通の食事でも出るくらいの量。そもそも違反を問うレベルになかった」と明かした。偽陽性が出た原因については、検体の保管状態に不備があり、腐敗の可能性があったことを指摘。昨年末の試合後、尿検体はJBC職員によって常温状態のまま、自宅に持ち帰られ、冷蔵庫に保管。その後一度も冷凍されることなく、5日後検査機関に持ち込まれたという。服部氏は「適切な保存体制や、厳重な輸送もしていない。これでは適正な結果が出るわけがない」と苦言を呈した。井岡自身も「信頼していたが、初めて知って驚いた」と語った。

井岡側は検査手続きの手順について「JBCは国際基準に沿ったドーピング規定を順守していないことを反省するべき」と主張。井岡自身も「保管、検査方法に不備があること、このような騒動を生じさせた責任を求め、体制を整備することを求めます」とコメントした。

疑惑は晴れたが、SNSで誹謗(ひぼう)中傷を受けるなど、精神的な苦痛も味わった。「自分が潔白だったと言うことには満足しているが、この1カ月半で自分の人生はかなり変わったし、家族の人生が終わっていくのかという不安もあった」。

後日JBCが謝罪に訪れる予定だが「会見を見ていて誠意が伝わらなかった。これで謝罪だけというのは納得がいかない。今の体制でやっていくのは不安があるし、選手が安心してパフォーマンスができるように望んでいる。被害者ぶる気はないが、人生を、命をかけてやってきたのに、あれでは年内にちゃんと試合ができるのか正直疑問」ときちんとした対応を求めた。

これでようやくボクシングに集中できる。「過去にこだわるタイプではないので、前に向かって進んでいる。やるべきことは変わらないし、応援してくれる方を裏切るようなことはない」と前を向いた。【松熊洋介】