大好きな後輩でもベルトは渡さなかった。ワンダー・オブ・スターダム選手権は王者中野たむが、上谷沙弥(24)をトワイライト・ドリームで破り、2度目の防衛に成功した。

「宇宙一かわいい顔」をくしゃくしゃにしながら、バックステージに現れた中野は「やっぱり特別な存在だった。私が知っている上谷と全然違った」と涙を見せた。「予想以上に強かった」。アイドル時代から気にかけ、プロレスラーへの道へ誘った上谷の成長を肌で感じた。

中野の張り手が、上谷の闘志に火を付けた。不適な笑みを浮かべながら、何度も顔をビンタされた。「あんなに張ってくる選手じゃなかったのに…」。立てなくなるほどのダメージを受けたが、中野もこれまで以上に、反動を付け、渾身(こんしん)のエルボーをたたき込んだ。最後はフェニックススプラッシュを返し、波状攻撃を仕掛けて、粘る上谷を沈めた。

6月24日の大会で上谷が負傷し、その後の大会を欠場していた。「復帰戦だったけど、どう見たって万全の状態じゃなかった。万全だったら、今私はベルトを巻いていないかもしれない」。それでも「この白いベルトを渡すわけにはいかない」と、手を緩めることなく、真っ向勝負で戦った。中盤には上谷と手をつなぎエルボー合戦。「お互いに逃げない」という意思表示だった。

試合後にはリング上で握手を求め「これからまたあの頃みたいに一緒に夢を見ない」とコズミック・エンジェルズへ誘ったが、上谷に「私が今進んでいる方向は間違っていない」と断られた。師匠と弟子の関係ではなく、ライバルとして再び歩んでいくことを決断した後輩に中野は「また白いベルトをかけて戦いたい」と受けて立つ覚悟を見せた。3度目の防衛戦にはキッドが挑戦表明。「まだかなえなきゃいけない夢がある。どんどん防衛して、スターダムの頂上のベルトにしていきたい」。さらに強くなった上谷との再戦まで、王者で居続ける。【松熊洋介】