東京五輪がもうすぐ始まるが、歓声や熱気なき大会となった。通常通りに開催がされても、異例の大会だった。スポーツ大国のロシアは国としての出場は除外された。個人資格での出場は認められたが、国旗や国歌は認められていない。

16年リオデジャネイロ五輪では国別獲得メダル数は、金19個、合計56個でいずれも4位だった。旧ソ連時代の金395個、合計1010個は、今も米国に次ぐ2位。異例の事態となったのは、14年にテレビ番組での告発に始まったドーピング問題だった。

古代ギリシャでも興奮剤を用いるドーピングがあったそうだ。ボクシングに限ると、海外では麻薬などの違法薬物や筋肉増強剤などで違反する例はままある。国内では世界王座獲得の尾川が、薬物違反で無効試合となったぐらいだったが、珍しく騒動が起きた。

WBO世界スーパーフライ級王者井岡一翔の件である。結局はずさんな検査体制から違反は認められず、処分はなし。日本ボクシングコミッション(JBC)が井岡に謝罪して一応のけじめはついた。ただし、いくつかの問題は未解決のままだ。

ボクシング界のドーピング事情とは。試合後に選手がなかなか排尿できず、取材を待たされたことが何度かあった。それぐらいしか記憶にない。WBCとWBAは世界ランクに入ると抜き打ち検査がある。内外とも基本世界戦だけ実施される。

五輪競技の取材経験が少なく知識も疎いが、井岡の件では問題点がいくつも判明した。今回は試合前の検体で、会場内に常温で置かれていた。検査する病院が休日のため、JBC職員が試合後に車で持ち帰り、自宅の冷蔵庫で保管。7日後にリュックで病院に運搬し、病院の簡易検査で陽性反応が出たという。

検体は冷凍保存が常識で、突っ込みどころは満載だ。4月に騒動勃発後、国内での世界戦は6月に女子の日本人対決が1試合あった。JBCはドーピング検査委員会で体制などを協議中だが、暫定措置で検査を実施した。検体容器を変え、選手本人も検体にサイン、冷凍保存し、精密検査したという。

JBCは痛烈な批判を浴びることになった。本人通知前に警察への相談、情報が一部マスコミに流失も大きな問題だった。こちらはガバナンス委員会で8月には答申となるという。

JBC永田理事長はドーピングについては年内をメドとした。東京五輪パラリンピックの開催で、日本アンチ・ドーピング機構に相談もできない状況にある。検査に立ち会う検査オフィサーが不可欠も、人材育成には時間がかかるという。

米国では行政機関の各州アスレチックコミッションが試合を管轄する。JBCは財団法人に過ぎない。そもそもプロ野球、プロゴルフと同様に日本アンチ・ドーピング機構に加盟していない。「独自のものを作っていきたい」としたが、JBCだけの問題ではない。

一番の問題は費用面にあり、プロモーターが決めることでもある。ボクシングは対戦する両陣営が契約書を交わして始まる。ファイトマネーが一番だろうが、さまざまな条件があり、ドーピング検査もその一つだ。五輪などと同じ検査を導入すれば、現状とは桁違いの経費となる。

JBCに限らず、4つ主要団体にしても契約書を承認する立場にすぎず、承認料で成り立っている。17年に山中慎介がV13失敗も、奪取のルイス・ネリ(メキシコ)から禁止薬物の陽性反応が出た。JBCは無期限資格停止処分としたが、WBCは処分せずに再戦を落としどころとした。うやむやにした感は否めない。

厳正なる検査を導入した場合の経費は、ファイトマネーにも影響することになるだろう。マッチメークという交渉で、個人が対戦する興行という図式のボクシング。この問題解決はそう簡単ではない。【河合香】