WBO世界スーパーフライ級王者井岡一翔(32=志成)が、鬱憤(うっぷん)爆発のV3を飾った。15連勝中の同級2位フランシスコ・ロドリゲス(28=メキシコ)との指名試合。日本人唯一の4階級制覇王者として、2階級制覇を狙った相手に3-0の判定勝ちを収めた。ドーピング騒動後では初の試合で、国内の世界戦では初の無観客開催も、苦悩の日々を送った憂さを晴らす白星となった。

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「今日、無事防衛できた。統一戦を実現して、この階級で井岡一翔が1番強いことを証明したい」。

身に覚えのない騒動に巻き込まれた。井岡はその鬱憤を拳に込め、ストレート、ボディーとパンチを打ち込んだ。国内での世界戦で初の無観客開催。歓声のない、静寂に包まれたリングとはなったが、日本の第一人者の存在感を示すV3を果たした。

昨年大みそかに田中恒成を8回TKOで、日本人初の複数階級制覇王者対決に完勝した。4階級制覇の威厳を示すも4カ月後に騒動が起きた。いきなり自宅に警察がやってきて、薬物疑惑と報道される事態に。SNSで家族を含めて誹謗(ひぼう)中傷され「苦しかった。つらかった」日々を過ごした。

違反はなく、日本ボクシングコミッションが謝罪で区切りも、そう簡単に心は晴れない。ただ、井岡にとって「ボクシングは人生で仕事」。自宅観戦も「一緒に戦っている」という家族のためにも勝ち続けるしかない。日本人歴代最多を更新する世界戦17個目の白星で応えた。

3試合連続の指名試合だった。ロドリゲスは14年にWBO世界ミニマム級王座を獲得し、IBF王者高山勝成との王座統一にも成功。15年のWBO世界ライトフライ級王座挑戦は失敗も、16年から昇級して15連勝中(11KO)。日本人には3戦全勝で2階級制覇を狙う侮れない相手だった。

指導を受けるサラス・トレーナーは前回は感染明けも来日したが、今回は来日できなかった。強敵相手に参謀不在の不安も吹き飛ばし、7月に新たな拠点を設けた志成ジムでの再出発も飾った。

次戦は過去8勝(6KO)1敗で4年連続の大みそかが予想される。狙いは統一戦あるのみ。10月にWBC&WBA王者エストラーダはゴンサレスとの第3戦が濃厚で、IBF王者アンカハスが標的になる。コロナ禍で先は読めないながら、復帰時の大目標ビッグマッチが期待される。

○…今春、薬物騒動に揺れた王者井岡が試合後、ドーピング検査を受けた。昨年大みそかの2度目の防衛戦後の1回目は簡易検査だったが、日本ボクシングコミッション(JBC)によると今回は1回目から精密検査に切り替えた。第3者委員会による調査でJBCの検体の管理体制が不手際が指摘され、潔白が証明された井岡は謝罪を受けていた。JBCは「従来より精密に、冷凍保存もしっかりやっている」と説明していた。