村田-ゴロフキン戦は、日本ボクシング史上最大のスーパーファイトになる。最も選手層が厚いミドル級で最強と評される名王者と、オリンピック(五輪)とプロで頂点に立った日本人王者による統一戦。報酬額は2人合わせて推定20億円超といわれ、国内過去最大の興行規模になる。米国が主戦場のスーパーファイトが、なぜ日本で実現できたのか。1991年から世界のビッグマッチを放送してきたWOWOWエキサイトマッチの大村和幸氏と和佐亨氏の新旧プロデューサーに聞いた。(取材・構成 首藤正徳)

【連載】4・9村田諒太VSゴロフキン 日本史上最大の決戦/まとめ>>

「奇跡」。村田-ゴロフキン戦について語る元プロデューサーの大村氏と現職の和佐氏の口から、この言葉が何度も出てきた。

大村 村田にはぜひ勝ってほしい。でも結果以前にあのゴロフキンと村田の伝統の世界ミドル級統一戦が、日本で実現すること自体が奇跡ですよ。

和佐 かつてミドル級は欧米人のものでした。それが今回はカザフスタン人と日本人による統一戦で、何より帝拳の本田明彦会長の世界的なプロモート力が大きいのですが、加えてネット配信の2大メディアもタッグを組んだ。いろんな巡り合わせで実現した奇跡の興行だと思います。

欧米人の平均的な体格のミドル級(約72・5キロ以下)は、世界で最も選手層が厚く、ヘビー級と並んで人気が高い。有名王者の統一戦などは“スーパーファイト”と呼ばれ、報酬はPPV(ペイ・パー・ビュー)などの収入が歩合制で上乗せされ、数十億円にまではね上がる。

大村 過去最大は15年のメイウェザーとパッキャオの統一戦。PPVの歩合などを含めると最終的な報酬額はメイウェザーが250億円、パッキャオが150億円に達しました。試合会場での前日計量が、史上初の有料にもかかわらず、1万6000人の客で満員になったのには驚きました。

その2強時代の後、主役になったのが17連続KO防衛を記録したゴロフキンと、4階級制覇王者サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)。2人との対戦は大金を積めば実現できるほど簡単ではない。

大村 ゴロフキンは世界的な名王者ですが、スーパーファイトは1人では成立しません。五輪金メダリストでプロでも王者になった村田の実力は世界でも非常に高く評価され、ゴロフキンにとっても戦わなければならない大きな存在になった。だから日本に来る決断をしたのだと思います。

スーパーファイトの主戦場は米ラスベガス。世界中から集う観客の多くが、入場料以上の大金をカジノに費やすため、大手カジノは誘致に積極的。日本での開催は異例ともいえる。

大村 これほど大きな試合をカジノ抜きで開催するのは画期的。プロモーターの力が非常に大きいのですが、加えてPPVからネット配信の時代への転換期ということも大きな理由でしょう。

和佐 今回の試合の配信権は、海外がDAZN、国内はAmazonプライムビデオ。2つの配信メディアが関わって経費を分担したことも大きかったと思います。

ゴロフキンには過去2度微妙な判定決着に終わったアルバレスとの3度目の対決の可能性も浮上している。今回、村田がゴロフキンに勝てば、さらに大きな試合の主役の座をつかむことにもなる。

和佐 村田選手が勝てば、あのカネロとの対戦が実現するかもしれません。三つどもえのスーパーファイトが続く可能性もあります。夢が広がります。

大村 試合の予想や、その先の展開も含めて、いろんな夢や想像が膨らむ。それがスーパーファイトの魅力でもあるのです。

◆エキサイトマッチ 91年のWOWOW開局以来続くプロボクシング中継番組。週1回の2時間枠で、世界中の注目試合を年間100試合以上放送。マイク・タイソン、オスカー・デラホーヤ、フロイド・メイウェザー、マニー・パッキャオら有名王者のスーパーファイトを生中継してきた。