WBAスーパー、IBF王者井上尚弥(29=大橋)が日本人初の3団体王座統一の快挙を成し遂げた。WBC王者ノニト・ドネア(39=フィリピン)と3本のベルトを懸けて拳を交え、2度のダウンを奪って2回1分24秒、TKO勝ち。19年11月以来、約2年7カ月ぶりの再戦を制し、年内の4団体統一を目標に掲げた。井上陣営はWBO王者ポール・バトラー(33=英国)との交渉を開始。12月に首都圏の大会場を確保したことも明らかになった。

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ゴングと同時に井上は目を覚ました。1回開始時にいきなりドネアの左フックが右目をかすめた。「あれでピリっとした」。残り10秒に右クロスで1度目のダウンを奪うと「練習でやったタイミング。練習は間違いない」と確信。こめかみあたりに何度も左フックを合わせてぐらつかせ、最後はワンツーからの左フックでドネアを大の字にさせた。1万7000人総立ちの快勝劇だった。

19年11月のドネアとの初対決は激闘の末に判定勝ちし、国内外で「ドラマ・イン・サイタマ」と呼ばれた。2年7カ月ぶりの再戦に向け「ドラマにするつもりはない」と自らに重圧をかけて臨んだ3団体王座統一戦。有言実行の圧勝劇に「うまくいきすぎて夢じゃないかと思った。この先1つ上のステージにいけるかなと思う」と笑顔。完全決着したレジェンドに向け「ドネアがいたからこそ輝けた」と感謝した。

19年11月のドネア戦後の3試合は防衛戦で気持ちの高揚を感じられずに悩んだ。再戦を前に孤独タイムを多く設けてきた。「自分の中の集中力を1人になって高めたかった。より、この試合に懸ける思いを言い聞かせるため」。自問自答を繰り返してきた。「不安な面はあったが打ち勝った」と自らに及第点を出した。

父真吾トレーナーから戦前に受けた助言も大きかった。実戦練習で感情的で力任せになる瞬間を指摘された。父に「自信満々にいった時が怖い。チャンスの時こそ冷静に」と教えられた。1回終了後、父らセコンド陣に「(攻勢に)いかないよと言って自分にも言い聞かせていた。これで冷静になれた」。気持ちを抑える-。ドネア返り討ちの根底に親子で培ったクールさが込められていた。

所属ジムの大橋秀行会長(57)はWBO王者バトラーとの対戦交渉が始まっているとし「良い状況」と明かした。4団体統一戦のため、陣営も12月に首都圏の1万5000人程度が収容できる会場を予約した。井上は「4団体統一にリーチをかけた。まず年内に4団体統一を考えたい」とキッパリ。世界でも過去8人しか達成していない4団体統一。モンスターの快挙達成のストーリーは続いている。【藤中栄二】