K-1の3階級制覇王者で現スーパーフェザー級王者武尊(30)が27日、無期限休養を宣言した。都内で緊急記者会見し、19日のRISEフェザー級王者那須川天心(23)との試合に判定負け後、初めて心境を語った。明かしたのは心身の苦悩。特に精神面ではパニック障害、うつ病と診断されていた。王座は返上して休養に入るが、格闘家としての現役続行には前向き。敗北の恐怖から救ってくれたファンへ、復活を誓った。

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武尊が言葉に詰まった。「あの時の『ありがとう』という言葉が、この10年勝ち続けてきて…、勝ち続けてきたんですけど、その時のどんな『おめでとう』よりもうれしくて…」。

会見冒頭からマイクを握り、語り始めた。その途中、「あの時」「その時」の情景が頭に浮かぶと、涙が浮かんだ。

8日前、超満員の東京ドーム。“世紀の一戦”で激突した那須川に敗れた後だった。1回にダウンを喫し、0ー5の判定負け。「敗者はスポットライトを浴びずに、勝者が浴びて、敗者は静かに帰るイメージだった」。負けて歩む花道の実際は、正反対だった。

「ありがとう!」

悔しさから直後の会見はひと言で切り上げた。心配したファンからも、この1週間で激励のメッセージがSNSにあふれた。1万件以上。眠れない日々、1、2時間の睡眠時間以外はずっと目を通した。「勝ち続けてきた中で僕が気づけなかったことや、知れなかった部分を知ることができた」。

10年間負けなし。Kー1の看板も背負った。負けの恐怖心に縛られていった。「これは公表するか悩んだ」と明かしたのは精神障害だった。パニック障害とうつ病。「今回の試合で、決まるまで数年なんですけど、自分の心が耐えれるのか不安もあったし、知らず知らずのうちに自分の心が壊れていっているのを感じて」と吐露した。

試合前は負け=引退と決めていた。それがあの花道で変わり始めた。「恩返しをしたい」。道が決まっていった。

ベルトは返上し、無期限の休養に入る。拳、「分離すべり症」の腰、内側靱帯(じんたい)損傷の膝など肉体も悲鳴を上げていた。心身を回復させるため、海外で療養に入る。ただ、「勝つ姿を見せてから終わりたい」と引退はない。

復活の日に、どのリング、競技に立つのか。総合格闘技転向もうわさされる。UFC参戦を問われ、「僕にはまだ可能性がある」とも返した。1つの敗北が生んだ絆が、格闘家人生の先を照らす。30歳、まだまだ進化できる、勝利を届けられると信じる。もう怖さはない。確信がある。

「これで1つ強くなれた。もっと思い切り戦えるんじゃないかなと思うし、これから、もっと僕は強くなれる」【阿部健吾】

◆世紀の一戦 19日に行われた「THE MATCH 2022」のメインで、天心と武尊は3分3ラウンド、契約体重58キロで対戦。武尊は、1ラウンド終了間際に左カウンターを浴びてダウンするなど終始劣勢に立たされ、0-5の判定負けを喫した。大会は格闘技イベントRIZINを運営するドリームファクトリー・ワールドワイドの榊原信行代表が音頭を取り、キックボクシング主要団体のRISE、K-1が全面協力。東京ドームは5万6339人の観衆で埋まった。テレビの地上波はなく、ABEMAのPPVライブで配信され、視聴数は約50万件。チケット代、スポンサー代も含めると「50億円に及ぶ史上空前の興行」になったと言われている。