元プロレスラーで参議院議員も務めたアントニオ猪木さんが1日午前7時40分、都内の自宅で心不全のため亡くなった。79歳だった。

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忘れられないシーンがある。あれは1994年7月のこと。猪木さんと一緒に米国に行った。最初に訪れたデンバーで再会があった。相手はムハマド・アリ。すでにパーキンソン病を患っていたアリはゆっくりと、けれど確かな足どりでホテルのバンケットホール(宴会場)で、待っていた猪木さんを目指して歩いてきた。相変わらずあごが長いな、とあごに手をやると、猪木さんは満面の笑みで軽くパンチするしぐさをして、ふたりは固く握手を交わした。まるで名作映画の1シーンだった。

2人が日本で対戦してから18年がたっていた。それ以来の再会かと思ったが、「いやアリの結婚式にも出席したし、その後も何回か会っているよ」と言った。2人の交流が続いていたのは、そのとき初めて知った。あの対戦は「世紀の凡戦だ」「いやあれこそ真剣勝負だ」と今でも評価が分かれる。そんな論争をよそに、2人の交流が続いていたことに驚いた。

猪木さんとはその後、フロリダのタンパ、オーランドを一緒に回った。単独インタビューもした。アメリカでの同行取材は、今でも記者として自慢のひとつだ。ムハマド・アリは6年前に亡くなった。きっと今ごろ2人は、天の上であの固い握手をしているのではないだろうか。今度はアリが迎える立場で。そう願わずにはいられない。【92年~94年バトル担当 三上広隆】