「重岡兄弟」がKOリレーで史上初を成し遂げた。

IBF4位の弟・銀次朗(23=ワタナベ)が、同級3位レネ・マーク・クアルト(26=フィリピン)に初回ダウンを喫しながら9回2分55秒、逆転KO勝ち。メインを務めたWBC3位の兄・優大(26=ワタナベ)は同級7位ウィルフレド・メンデス(26=プエルトリコ)に7回25秒KO勝ちした。兄弟の同日、同階級の戴冠は初の偉業。目標の兄弟での世界ミニマム級4団体王座独占へ、ともに進む。

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えぐるような左ボディーを突き刺した。9回、重岡銀がクアルトから3度目のダウンを奪い、レフェリーは10カウントを数えた。勝利インタビュー。「皆さんありがとうございました。チャンピオンになりました。イエイ!」。23歳の素顔全開で喜んだ。

波乱の幕開けだった。1回に右ストレートでいきなりダウンを食らった。「楽に勝ってかっこいい姿を見せるはずが、1ラウンド目からやらかしたと思った。初めてダウンして多少ダメージあり…貴重な経験でした」。それでもパニックに陥ることなく、冷静に盛り返した。6回は左ボディーでダウンを奪ったと思いきや、ビデオ判定で「スリップダウン」に変更となった。しかし7回に再び左ボディーを打ち込み、相手が片膝をつくダウン。9回に勝負を決めた。

「1月から悔しい思いをしてきた。何が何でも勝ちたかった」。今年1月の初めての世界挑戦は、王者バラダレスが試合続行不可能となる不完全燃焼の無効試合に終わった。今回再戦となるはずが、今度は王者が左鼓膜負傷を主張し“逃げ”られた。亀田興毅ファウンダー(36)が奔走してこぎ着けた暫定王座決定戦。負けるわけにはいかなかった。

4月16日。7年前に地元の熊本が震災にあい、26年前に兄優大が生まれた特別な日だった。「何が何でも地元に笑顔を届けたい。プレッシャーはあったけど、ホッとしてます」。試合後は兄のセコンドにつき兄弟で史上初の偉業を成し遂げた。「小さいころからベルトを夢に兄貴と頑張ってきた。めちゃくちゃうれしい。言葉だけじゃない支え合いがあった。お互いの存在があったおかげです」。

あらゆる試練を乗り越えての戴冠。「世界王者になった気でいるがまだ暫定。正規王者になるためにもっとレベルアップしていきます」。最終目標は元WBA世界ライトフライ級王者、具志堅用高氏の連続防衛日本記録「13回」超え。歴史に名を残すボクサーへ、兄弟でその第1歩を踏み出した。【実藤健一】

◆重岡優大(しげおか・ゆうだい)1997年(平9)4月16日、熊本市生まれ。空手からボクシングを始め、開新高で4冠。拓大進学後、18年に全日本選手権ライトフライ級を制しアマ5冠。アマ戦績81勝10敗。大学3年で中退しワタナベジムからプロ転向。19年10月プロデビュー。21年2月、日本ライトフライ級ユース王座獲得。同11月、WBOアジア・パシフィック・ミニマム級王座奪取、昨年11月に日本同級王座獲得。身長160センチの左ボクサーファイター。

◆重岡銀次朗(しげおか・ぎんじろう)1999年(平11)10月18日、熊本市生まれ。幼稚園から小学6年まで空手。小学4年から並行してボクシングを開始。小学5年からU-15(15歳以下)全国大会5連覇。熊本・開新高で16、17年高校選抜連覇、16年国体優勝など5冠。アマ戦績56勝(17KO・RSC)1敗。18年9月にプロデビュー、プロ4戦目でWBOアジア・パシフィック・ミニマム級王座獲得。22年3月には日本同級王座獲得。家族は両親と姉、兄、妹。身長153センチの左ボクサーファイター。

<主な兄弟同時王者>

◆日本初 亀田兄弟で10年2月、次男大毅がWBAフライ級王座を奪取。当時、長男興毅もWBC同級王者で、日本初の兄弟王者が誕生。また13年には大毅がIBFスーパーフライ級王座を獲得し、当時は興毅がWBAバンタム級王者で、三男和毅もWBO同級王者で3兄弟同時世界王者に。ギネス世界記録にも認定。

◆井上兄弟 18年12月に井上兄弟の弟拓真がWBC世界バンタム級暫定王者となり、同年5月に3階級制覇を達成していたWBA世界同級王者兄尚弥と兄弟王者に。

◆同日世界王者 92年9月、デンマークのブレダル兄弟が同日に世界王座奪取。兄ジミーがWBO世界スーパーフェザー級王座、弟ジョニーもWBO世界スーパーフライ級王座獲得。

◆ヘビー級兄弟王者 ウクライナのクリチコ兄弟で、08年に兄ビタリがWBC王座を奪取。当時、弟ウラジミールもIBF、WBO王者で、ヘビー級初の兄弟同時世界王者に。

▼ビデオ判定 IBF世界戦で初のビデオ判定機能「ビデオ・テスティング・システム(VTS)」が採用された。08年からWBCが採用するビデオ判定(インスタントリプレー)の方法をベースに、日本ボクシングコミッションがABEMAの協力を得てバージョンアップ。別角度にカメラ5台が設置され、レフェリーの要請があった場合、パネリスト(委員)3人が映像チェックする。全員が同判断の場合のみ、判定変更される。この日のクアルト-重岡銀戦の6回には、1度は重岡銀がクアルトからダウンを奪ったとジャッジされたが、レフェリーのVTS要請によってスリップに変更された。