WBC世界スーパーバンタム級王者西岡利晃(33=帝拳)が恩人から授かった「捨身魂」を胸に4度目の防衛を誓った。30日のダブル世界戦(東京・日本武道館)での同級10位バルウェグ・バンゴヤン(23=フィリピン)戦に向けて23日、都内で練習を公開。スパーリングでは強打を何発も披露し万全ぶりを印象づけた。数日前には異色画家で交流のある山本集氏(69)から「捨身魂」という題の肖像画を贈られた。今回初めて生観戦予定の恩人に会心の勝利を贈るべく、心身ともに最高の状態にある。

 1週間前と思えないほど、西岡の状態は完ぺきだった。この日の東洋太平洋フェザー級王者松田(帝拳)との2回のスパーリングでは、強烈な左を何発もさく裂させた。1階級上の松田は「キレがある。今回は半端ない。やばいですよ」と絶賛。昨年末から約3カ月間、元大リーガー野茂氏の指導経験がある中村正彦トレーナーの下で行った体幹強化の効果で、強打を放ってもバランスの崩れない、究極の体に近づいていた。

 数日前、闘志をさらにかき立てられる出来事があった。画家の山本氏から肖像画を贈られた。「すごい絵ですね」。山本氏とは絵画作品のファンだったことから、知人を介して交流。04年に4度目の世界挑戦に失敗した時には「この道より生きる道なし」と書かれた色紙を贈られ、居間に飾って再挑戦を決意した。今回、額の裏に書かれた言葉は「捨身魂」。「捨身」という言葉は、5度目の世界挑戦で悲願達成となった08年ナパーポン戦前に贈られた言葉だった。

 当時、山本氏は前年に悪性のぼうこうがんの手術を受けた末に再起し、画家活動を再開した時だった。その時の言葉をこん身の力作に添えて再び贈った山本氏は「挑んでいる姿を描こうと思った。もう1回捨て身でいかんと防衛できへんぞ、と。大病を患ってもワシも頑張ってる。闘志に火が付いてくれたらいいなと思った。どないしてでも勝ってくれというメッセージ」と説明。恩人のそんな熱い思いに触れ、西岡は「ナパーポン戦は『捨身』の気持ちでやったから取れた。その言葉は、常に心にあります」と絵画を見つめた。

 4度目の防衛戦となる今回、初めて山本氏が観戦予定だ。「彼を見て勇気をもらって絵を描きたい」との言葉を伝え聞き、西岡は「必ずいい試合を見せます」と固く誓った。「万全に仕上がっています」と自負する肉体に「捨身魂」も宿った王者に、死角は見当たらない。【浜本卓也】

 ◆山本集(やまもと・あつむ)1940年(昭15)7月15日、奈良県生まれ。大阪・浪商野球部では張本勲氏と同期。卒業後、石材業、智弁学園野球部初代監督、武闘派組長など波乱の人生を歩み、89年に画家に転身。これまで大阪や東京で個展を何度も成功させた。大好きな富士山を題材とした絵も多い。関西国際空港の正面玄関に飾られている「雄渾」は代表作の1つ。