東前頭筆頭の隠岐の海(31=八角)が、またしても上位を食った。大関照ノ富士を土俵際で逆転。物言いもついたが、10年秋場所11日目の魁皇-日馬富士戦以来、6年ぶりの決まり手となる「逆とったり」で無傷の4連勝を飾った。平幕が初日から4日連続で大関以上を破るのは、昭和以降初めて。

 今場所の土俵の神は、隠岐の海の味方なのか-。照ノ富士に攻め込まれ、ほぼ同時に土俵を割る。一瞬、相手の方が早く見えた。軍配は隠岐の海。土俵下の放駒親方(元関脇玉乃島)の手が挙がり協議されたが、結果は変わらなかった。「(相手の)足が出たと思ったけど、物言いがついたので、自分が不利かなと思った」。平幕では昭和以降初となる、4日連続で横綱大関戦勝利の快挙だった。

 内容は完敗だった。もろ差しを狙った左腕をたぐられ、一気に土俵際へ追い込まれる。だが逆に相手の右腕を取った。土俵を飛び出す直前、宙に浮いた右足を残した。「いっぱいいっぱいです」。師匠でもある八角理事長(元横綱北勝海)は「調子がいいから、最後まで諦めなかったのだろう」と心境を代弁した。一瞬の粘りが、明暗を分けた。

 それでも、隠岐の海の口からは反省の弁ばかりが漏れた。「完璧に負けていた相撲。あんだけおっつけるから、こういう相撲になる」「厳しかった」「集中していなかった」。上位陣を次々と撃破しながら「調子悪いっす」とも言った。朝は珍しく、2日連続で稽古場に姿を現さず。3日目には「いろいろやってるんです」とけむに巻いたが、想像以上の重圧と闘っていたのかもしれない。

 残る2大関撃破の期待も高まるが「もうちょっと、頑張ります」と言葉少な。5日目から始まる下位との対戦に向けては「集中したいです、明日に向けて」と険しい表情で話し、八角理事長は「上とやる時は、自然と気合が入るもの。また集中して、切り替えが大事」と心構えを説いた。大暴れで吹かせた追い風を、逃すつもりはない。【桑原亮】

 ◆逆とったり 相手に腕を取られて「とったり」を打たれた時に、とられた腕を抜くようにしながら腰をひねって引き、相手を倒す技。幕内では10年秋場所で豊桜が垣添戦で15年ぶりに決めた。同日に魁皇も繰り出し、史上初めて1日で2度という珍事があった。