33秒7。この時間の中に、魅力あふれる攻防がたっぷりと詰まっていた。

 新大関高安(27=田子ノ浦)は平幕宇良(25=木瀬)の挑戦を受けた。この日、もっとも土俵が沸いたのは、初顔合わせのこの一番だった。

 前日に涙の初金星を挙げている宇良に、高安は警戒レベルを引き上げていた。胸を合わせられればいいが、そう簡単にはいくまい。ならばと、あらゆる動きを頭の中にたたき込んだ。幸いにも、8日目には土俵下で対白鵬に挑んだ宇良の動きを直接見ていた。あとは体の自然な反応に懸けた。

 注目の立ち合い。もろ手で突いて出て、距離が空いた。左を大振りして出方を探る。その瞬間、中に入られて左を差された。それでも下手投げは重い腰でしのぎ、左手をたぐられかけたが、これも突き放して防いだ。再び距離が空いた。

 しかし、宇良は攻撃の手を緩めない。今度は俵に下がり、助走をつけて突進してきた。まるで、ぶつかり稽古。あの手この手で攻めてくる新鋭に、新大関は「気を抜かないように相当、集中していった。気疲れしましたね」と振り返る。

 2度目の突進で右足を取られた。足取り。宇良の形になった…ように見えた。だが、中継をテレビで見守っていた新関脇御嶽海の見方は違った。「わざと入らせた。狙っている。腰が引けていない」。ここぞとばかりに持ち上げて前に出た宇良。だが、懐深い高安はそのすきを狙っていた。力を入れて土俵をかんだ左足を軸に、体を反転。豪快な首投げが、宇良の体を裏返した。

 「(足取りは)頭に入れていた。あそこで残して、捕まえてからの方が安定していたけど、とっさに投げにいっちゃいました。どんな動きにも対応できるようにはしましたけど、やっぱり相撲が速いです。やわらかさもある」と取組後は相手を評したが、高安の体の反応の方が、宇良の速さを上回っていた。「三段目を捕まえて、好きに相撲を取らせて受ける稽古をずっとやっていましたから、それが生きたかもしれない」。新大関は見た目よりも余裕を持っていた。そして「会場が盛り上がったから良かったんじゃないですか」と涼しい顔をしてみせた。

 これで、大関として初めての勝ち越しとなった。ただ胸をなで下ろす気持ちはない。「しっかり勝っていかないといけない。今までも10番勝っていたし、8番くらいじゃ…」。大関としての「強さ」と「貫禄」を見せて、さっそうと会場を後にした。