日本相撲協会は26日、愛知県体育館で大相撲秋場所(9月10日初日、東京・両国国技館)の番付編成会議を開き、7戦全勝で名古屋場所の幕下優勝を果たした昨年のアマ横綱・矢後(23=尾車)の新十両昇進が決まった。改名はせず矢後のまま秋場所に臨む。

 関取当確の全勝優勝を果たした名古屋場所13日目から5日。あの時、誰はばからず流した涙は、乾ききっていた。晴れやかな表情で師匠の尾車親方(元大関琴風)と臨んだ会見。矢後は「とりあえずホッとしました。昨日もグッスリ眠れました」と少し照れた。

 所要2場所での新十両昇進は御嶽海に続き12人目の最速記録。こんな大器となれば改名が気になる。だがしこ名は据え置き。「1年かかって上がってもいいと思っていた」と話す師匠の見立てが、あまりのスピード出世に改名を考える時間もなく追いつかなかった-という推測は外れた。

 「しゃれではないです」と断った上で尾車親方が経緯を説明した。中大の先輩にあたる前頭豪風を交え、3人で話し合った末の結論だ。「この世界に入って2場所で、まだヤゴじゃないか。(改名は)トンボになって羽ばたいたらでいい。(出身地の)北海道の人に『矢後』の名を広めれば親孝行にもなる。慌ててトンボになる必要もない。羽を温めて羽ばたいたらでいい」。代々、尾車部屋では関取になると師匠の現役時代のしこ名の1文字をとって「風」をつけている。そんな慣例も、幼虫のヤゴから成虫のトンボになるまで待つ、というわけだ。

 ちゃんこ番の皿洗いも師匠が「もういい」と言うまで黙々とこなす、真面目な学士力士。187センチ、170キロの「気は優しくて力持ち」を地で行く矢後は「皆さんから応援していただける、格好いい力士になりたい」。トンボになるその日まで、精進の日々が続く。【渡辺佳彦】