横綱白鵬(32=宮城野)が張り手、かち上げなしで初日を突破した。元横綱日馬富士関による暴行事件、立行司の式守伊之助によるセクハラ行為と、相次ぐ不祥事の末に迎えた初場所は初日で小結阿武咲(21=阿武松)を突き落とした。取り口に苦言を呈していた横綱審議委員会(横審)からも合格点をつけられた。それでも右足親指を負傷したこともあり、若手に土俵際まで追い込まれるなど、不安も露呈した。

 歴代最長タイの横綱在位63場所目を迎えた白鵬の取り口に、かつてないほど注目が集まった。相手は立ち合いの圧力に定評がある阿武咲。これまでなら張り手などで勢いをそぐことも視野に入れる相手だが、グッとこらえた。立ち合いで狙った右差しは不発。左上手もつかまえきれず気付けば土俵際だった。さらに突進を続ける阿武咲を、最後は闘牛士のようにヒラリとかわしつつ右腕をたぐり、土俵外へと突き落とした。

 初場所初日は横審の本場所総見とあって、観戦した北村委員長は「今日も張ったりするのかと(横審メンバーで)言っていたので、みんなホッとした。ちょっとは気にしているのかな」と合格点を付けた。これを伝え聞いた白鵬も「私もホッとしましたよ。まあ、いいスタートが切れたのではないかな」と笑顔だった。

 昨年12月20日に、横審から苦言を呈された。張り手やかち上げの多さに「美しくない」「見たくない」といった投書が相次いだといい、横審の委員も次々と同調。「待ったなし」で立ち合いの改善が必要だった。

 張り手やかち上げは、意図的に繰り出すばかりではなく、癖になって無意識に出ることもある。だからこそ今場所前は稽古の様子をビデオ撮影し、修正に努めた。5日の横審稽古総見でも、張り手が飛び出して不穏な空気となったが、改善に取り組み続けた。

 初日こそ突破したが、阿武咲に押し込まれ、張り手、かち上げなしでは付け入る隙を与えることも露呈した。しかも報道陣に非公開だったこの日の朝稽古では古傷の右足親指を負傷。腫れた患部を氷水で冷やし、部屋関係者によると両国国技館内の相撲診療所で痛み止めの注射も打った。今後の不安要素は重なり、初場所中に張り手やかち上げを繰り出す可能性は高い。

 元日馬富士関の暴行事件は酒席に同席し、式守伊之助は同部屋と、一連の不祥事で白鵬は常に“震源地”の近くにいた。それだけに「お客さんが来てくれることがありがたい。残り14日間、それに応えていきたい」と神妙な表情。横審の北村委員長は、歴代最長69連勝の記録を持つ横綱双葉山が得意とした、受けて立ちつつ先手を取る「後の先」を引き合いに「そういう相撲を見たい」と、新たな宿題を課した。取り口よりも白星を追求した立ち合いに変えるのか、今後がさらに注目される。【高田文太】