今回の理事候補選挙で“波乱”はほぼ見られなかった。予測不能とうたわれ、一門の垣根を越えて多くの票が行き来した2年前の前回と違って、今回は一門の締め付けが相当に厳しく、票の流れは想定通り。貴乃花親方(元横綱)は一門外からの支持を集めることができなかった。当選者の顔ぶれは当初の予想通りの結果となった。

 貴乃花親方が二所ノ関一門を離脱して強行出馬した10年以降、5期連続の投票に持ち込まれた今回の理事候補選挙。6つの一門が全て、ほかの一門に持ち票を流出させる“予想外”の選挙だった前回と違って、想定通りに票が流れた。

 選挙自体に意義を求めた貴乃花親方はわずか2票。やはり逆転当選はなかった。関係者によると自身に加えて、子ども同士が結婚して親戚関係となった高砂一門の陣幕親方(元前頭富士乃真)の1票とみられる。

 貴乃花親方はこれまで「改革派」とされる姿勢に共感した中堅、若手の親方を中心に、一門の枠を超えて支持を集めてきた。だが、元顧問で在職中に不明朗な金銭授受など背任行為をしたとして協会に訴訟を起こされた人物と近いとされる姿や、理事を解任された一連の騒動もあって求心力は低下。離反する親方の姿もあった。一門外の浮動票はなく厳しい現実となった。

 代わるように、同じ貴乃花一門の阿武松親方(元関脇益荒雄)が初当選。貴乃花親方に近い出羽海一門の山響親方(元前頭巌雄)も一門外から集めて当選を果たした。ただ、これらの票は想定された流れだった。

 前回の事態を受けて各一門では直前まで何度も緊急会合を開いた。中には追放をちらつかせて締め付けを強化した一門も。想定外の票の流出に神経をとがらせた。高砂一門の八角理事長(元横綱北勝海)は時津風一門と協力して、流出想定分の票を確保。前回で伊勢ケ浜一門の支持層を切り崩されて落選した高島親方(元関脇高望山)は持ち票9票を堅守し、さらにほかからの票も確保して12票でトップ当選した。二所ノ関一門では、尾車親方(元大関琴風)と芝田山親方(元横綱大乃国)が持ち票20票を半分ずつに分け合った。

 出羽海一門のほかの3人や、票を融通する余裕があった時津風一門の鏡山親方(元関脇多賀竜)も順当だった。終わってみれば“無風”と言える選挙だった。