関脇栃ノ心(30=春日野)が、横綱鶴竜に土をつけた。過去1勝21敗という大の苦手を自慢の右四つから寄り切った。勝ち越しを決め、来場所での大関とりへ夢をつないだ。負ければ鶴竜が王手をかけ、今日13日目にも優勝が決まる展開を阻止。ナニワの春を盛り上げた。

 大歓声が土俵を包む。初場所を席巻した栃ノ心の右四つが、もがく鶴竜を封じ込む。こん身の力で寄り切った。1敗の魁聖、2敗の高安が立て続けに敗れた。全勝鶴竜の優勝ムードが漂っていた。冷え冷えとした12日目の結びの一番で一転、荒れる春が訪れた。

 栃ノ心の息も荒れていた。「これ(左まわし)が取れたからね。絶対離さないと思った」。過去22戦21敗。10年九州場所で勝った後は19連敗。「当たりが低くて、いつも前みつを取られる」。初優勝した先場所も唯一負けた天敵だった。しかも、大関戦2連敗の直後。10日目は豪栄道の立ち合い変化で、11日目は高安に物言いの末、微妙な判定で負けた。「落ち込んだよ。でも黒星が白星にはならないから」。この日朝には師匠の春日野親方(元関脇栃乃和歌)に「残り(4番)全部勝つつもりでいきます」と宣言していた。

 残り3日で8勝4敗。かすかに残る優勝の可能性より現実的な目標がある。夏場所での大関とりだ。先場所は西前頭3枚目で14勝1敗。昇進目安の「三役で直近3場所で33勝以上」を思えば、1つでも白星を増やしたい。この日審判長を務めた境川審判部長代理(元小結両国)は「当然そうなる。そのためにも、残り3日が大事」と話した。

 全勝の横綱を止め、館内を沸かせた千両役者。「大関」の2文字は口に出さず、ニヤリと笑った。「勝つこと。10番勝てるようにね」。自信満々にささやいた。【加藤裕一】

 ◆幕内後半戦の境川審判長(元小結両国)のコメント 鶴竜は頭をつけられず顔が上がった。他の相手なら切れるまわしも切れなかった。栃ノ心は大関になってもおかしくない力強さ。(割崩しは)優勝争いが一番。面白い取組を(ファンも)期待しているでしょうから。