支度部屋で優勝決定戦の準備をしていた正代は、徳勝龍が勝った瞬間にのけぞった。

もう1番とりたかっただけに「ここまできたらね。いいなぁ優勝。ああ、昨日勝っておけば」。悔しがりながら、律義に徳勝龍に優勝を祝福する言葉をかけにいったがスルーされた。「待ってたのにふられましたね」と苦笑いだった。

堂々の自己最高13勝。御嶽海を右から抱えて寄り、土俵際で突き落としを食らってもかまわず体を浴びせた。「立ち合いがよかった。最低限やるだけのことはやった」。結びまでの長い待ち時間。他の関取衆にいじられ、笑いが起きるほどだった。「長かったけど、だいぶリラックスできてたんで」。決戦の備えは十分も、流れは来ずだった。

それでもひとつの壁を乗り越えたのは事実。「来場所につながりますね」。負けた前日を「この15日間で最も最悪な1日でした」。もやもやした気持ちを変えようと外で食事し、この日朝は初めて稽古場に下りず、洗髪した。「ここまできて何を悩んでんだ。バカバカしいな」と切り替えた。

朝、部屋に優勝祝賀用のタイが届いた。「結果によっては刺し盛りになるだけなんで。みんなでおいしくいただければいいんじゃないですか」。心を強く、経験値を高めて今度こそはに挑む。【実藤健一】