ここまでの相手で照ノ富士の手を一番、焼かせたのが霧馬山でした。横綱の右差しをおっつけながら防いで、その後も頭を下げてしのぎました。ただ、必ず右か左の上手を取っているのに止まってしまった。その前の攻防の中で出し投げを打ちましたが、あの動きを何回も続け、かき乱す必要があるのに結局、止まって土俵際に背を向けさせられたのは霧馬山の方でした。一方の照ノ富士は慌てず腰を落として構えました。そうなると、あれだけの大きな体は動かせない。そこを我慢して右に左に動かし、横綱の呼吸を乱し下半身を崩さないと勝機は見いだせません。

今後は攻めのスピードを求めたい霧馬山は今場所、私が楽しみにしていた力士の一人です。これだけ低い相撲を取れて、4日目までも攻め方は良かった。千秋楽まで勝ち続ける可能性も秘めています。霧馬山の最近の成長は「モンゴル相撲から大相撲への変化」にあると思います。以前の霧馬山は、まわしを取って組んで何かしようという相撲でした。子どもの頃から見ていたモンゴル相撲が頭に残っているからでしょう。柔道に似ていて基本的には腰を引いての競技です。でも大相撲は腰を前に出すのが基本。持って生まれた足腰の強さに、まず下から前に出て攻める相撲を心掛けているのが好調の要因です。

話は変わりますが、コロナではないようですがこの日、幕内力士2人が休場しました。力士は毎日、コロナ禍の不安とも闘っています。大相撲の長い歴史でも経験したことのない、見えない敵と闘い、心を奮い立たせて土俵に上がっていることを、ファンの方に分かってもらえたら幸いです。(日刊スポーツ評論家)