これが横綱相撲です。それは、阿炎に押し込まれ土俵際に詰まった時の照ノ富士の対応で分かります。俵に足がかかった時、照ノ富士は右足を阿炎の内側に入れて残しました。12日目に明生が照ノ富士に投げを打たれた時は、外から足を掛けて失敗しました。内側にかけての残し方が横綱相撲と感じるところで、現役でこれが出来るのは照ノ富士しかいません。もっと言えば、モンゴル出身の横綱は何人も出ましたが、技のかけ方といい使い方といい、いちばん昔の日本人らしい相撲を取れるのが照ノ富士だと思います。アマ相撲の経験もある師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)の教えを生かして稽古しなければ、本場所であの動きはできないでしょう。

心技体の「技」はもちろん「心」の強さも出た一番と言えます。控えで座っている時の表情も落ち着いたものでした。押されるのは分かっている。ただ、どのぐらいの力なのかも分かっている。焦るのでなく、とにかく落ち着けば大丈夫と構えていました。最後に阿炎が引かざるをえなかったのは、横綱の圧力がそうさせたのでしょう。現状では非の打ちどころがありません。1歩どころか、2歩も3歩も差をつけて引っ張っています。それはそれで少し寂しい気もしますが、それほど照ノ富士の強さが際立っているということでしょう。(元横綱若乃花 花田虎上・日刊スポーツ評論家)