1度は自力優勝が消滅していた大関貴景勝(26=常盤山)が、20年11月場所以来、2年2カ月ぶり3度目の優勝に王手をかけた。関脇豊昇龍をはたき込みで秒殺。左足首を痛めて10日目を休場し、立ち合い変化も考えられる難敵を、迷いなく攻めて完勝した。今場所後の横綱昇進の可能性は極めて低くなったが、かえって土俵に集中。最終盤にして「心技体」が充実し、同じく3敗の琴勝峰との千秋楽相星決戦を見据える。

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不穏な空気が漂った。貴景勝は前日13日目の阿武咲戦とは一転、立ち合いで相手よりも先に手をついた。予想外だったのか駆け引きか、豊昇龍はこれを嫌って「待った」。負傷した左足首は踏ん張りがきかない相手は立ち合いで何をするか分からない。立ち合いが生命線の押し相撲の貴景勝にとっては嫌な流れ。それでも頭からぶつかり、左に体を開いて相手のバランスを崩し、冷静にはたきこんだ。千秋楽は埼玉栄高の後輩、琴勝峰との相星決戦に臨むことになった。

11、12日目の連敗で、乱れかけた「心」が整えられている。突き、押し1本が身上。手負いでくせ者の豊昇龍との立ち合いでも一切迷いはなかった。信じた道を貫き通し、前に出た。12日目終了時点で、1度は自力優勝の可能性が消滅。だが、横綱不在で番付最上位の責任感から、今場所は序盤から引っ張った。最終盤にして「心技体」もそろってきた。

佐渡ケ嶽審判部長(元関脇琴ノ若)は「大関は落ち着いていた。よく見て立ち合っているし、力が出ている。この場面で大関らしさが出ている」と称賛した。一方で同部長は、今場所後の横綱昇進について「今の時点で考えていない」と限りなく低い見解も示した。

ただ、貴景勝にとっては逆に目指すものが優勝だけに絞られ、吹っ切れた。師匠の常盤山親方(元小結隆三杉)は、弟子の優勝を信じて疑わない。12日目の取組前に、知人を通じて優勝した際のタイを発注。この日の取組前に「特大のを頼んだ」と笑って明かした。今場所後の横綱昇進がなくても、優勝なら来場所は再挑戦できる。前に出続ける貴景勝が、3度目の賜杯に挑む。【高田文太】

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