番付には大きな開きがありますが結びの一番は、ともに真っ向から当たり合ったということでは優勝を決めるにふさわしい、いい相撲でした。貴景勝があれほどすぐに差すのは見たことがなく驚きでした。狙ったわけではないでしょう。ただ圧力がしっかり伝わり力強かったし、中途半端でなく深く差せたのが勝因でしょう。琴勝峰からすれば踏み込んで右四つになりたかったところで、苦し紛れの投げも首投げでもなく小手投げでもなく、中途半端でした。高校の後輩に相撲を取らせなかった貴景勝が、一枚も二枚も上手でした。

横綱休場の1人大関というプレッシャーもあったと思いますが、それ以上に優勝決定ともえ戦で負けた先場所の悔しさが何よりもの原動力になったでしょう。連日、口の中を切り出血する相撲を取って、痛みで満足に口を開けないのに、いろいろな人に感謝の気持ちを一生懸命に伝える姿勢も立派で好感が持てます。

いよいよ綱とりです。本場所中はもうフラフラ状態になります。それでも挑戦権を得られるのは、長い大相撲の歴史を見てもほんの一握りの人だけです。苦しいけど、そう考えて挑戦してほしい。来場所は照ノ富士も出ると思います。霧馬山も大関昇進の足固めになるし、若隆景らも黙ってはいないでしょう。兵庫生まれだから、ほぼ地元の大阪での場所。舞台は整いました。「昭和の男」を感じさせる貴景勝には、悔いなく戦ってほしいと思います。(日刊スポーツ評論家)

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