大関経験者で東前頭14枚目の朝乃山(29=高砂)は、1差で追うトップの横綱照ノ富士(31=伊勢ケ浜)に敗れ、10勝3敗で自力優勝の可能性が消滅した。

同じ右四つの照ノ富士に、これで6戦全敗。立ち合いで相手に右を差させないよう、左はおっつけにいった。だが相手に左を抱えられ、前への推進力を利用されて小手投げに敗れた。「横綱の右手が抜けて、押し込んでいく時に左を差してしまったのがダメだった。抱えられて、上体が伸びて、起きてしまった」と、悔しそうに振り返った。

過去5度の対戦は、いずれも自身が大関で、照ノ富士の方が番付下位だった。6度目で初めて、自身の方が番付下位で顔を合わせたが、合口の悪さは変わらなかった。加えて朝乃山が結びの一番で取組を行うのは、大関時代の21年5月17日、夏場所9日目で阿武咲に勝って以来、739日ぶり。「久しぶりの結びで緊張した」と、冷静に取り切ることはできなかった。一方で久々の結びの一番で「思い切ってできた。照ノ富士関が横綱になってから初めてできたのもよかった」と、独特の雰囲気を思い出し、胸の高鳴りも覚えた様子だ。

それでも、現時点で照ノ富士とは「まだまだ差はたくさんある」と、課題も強く残った一番となった。現時点での「差」について朝乃山は「絶対に負けないという気持ちの部分。それが今日の小手投げにも出ていた」と、肩を落とした。

4月の春巡業中には、同じ右四つということもあり、何度もアドバイスをもらった。特に印象的だったのが「胸から行く相撲で、体が伸びきっている。それを直した方がいい」というものだった。自身が、何となくばくぜんと感じていた課題を、ズバリと言葉で表現された。今場所は「前にはたかれてもいいぐらい、体を起こさず、体を丸めて猫背にしていきたい」と、照ノ富士のアドバイスをもとに、低い立ち合いを心掛け、好成績につなげていた。

照ノ富士戦の白星に向けて「これまでの対戦も、胸からいったり(頭から)かましていったり…。どうやったら勝てるのか、ずっと考えていた」と、試行錯誤を繰り返してきていた。師匠の高砂親方(元関脇朝赤龍)には、この日の朝稽古中に呼ばれ「ガップリになると横綱の方が力が強い。下から中に入るような相撲を取れ」と、アドバイスを受けた。照ノ富士本人の言葉を含むさまざまな助言、対戦して得たさまざまな感触をつなぎ合わせ、白星を目指したが、またもはね返された。

結びの一番が久々なら、横綱戦は20年3月21日、春場所14日目で鶴竜に敗れて以来、1161日ぶりだった。照ノ富士と対戦するのも、21年3月27日、春場所14日目以来、790日ぶりだった。この日の取組後は「(照ノ富士戦は取組前まで)5連敗していたし、毎回勝ちたい思いはあったけど負けて悔しい」と、唇をかんだ。

前日の取組後、照ノ富士に1差をつけられ、この日で2差に広がった。残り2日間、自身が連勝、照ノ富士が連敗、さらに2敗の霧馬山も千秋楽で敗れるという、逆転優勝には極めて少ない可能性しかなくなった。「これで2差がついた。優勝は厳しいかもしれないけど、来場所のために、あと2つ(残り2番)、自分の相撲を取り切るように頑張りたい」。今場所の復活優勝は極めて厳しくなったが、来場所以降の復活優勝への思いを強めていた。