ともに一線での活躍が長い新垣結衣(29)と瑛太(34)だが、意外にもこの作品が初共演だという。

 「リーガルハイ」(12、13年、フジテレビ系)の脚本家、古沢良太氏が2人のイメージに当て書きしたかのようなキャラクターがピタリとはまり、胸キュンものよりちょっと上の世代の心地よいロマンチック・コメディーに仕上がっている。

 「勝負作」がそろった秋の文芸作品シーズンに、肩の力を抜いて見られる「ミックス。」(石川淳一監督、21日公開)はある意味異彩を放っている。

 新垣演じる多満子は元天才卓球少女。彼女をスパルタ的に育てた母(真木よう子)の死後は脱力したように暮らし、今は大企業の庶務課で地味に勤務している。その会社の卓球部に所属するスター選手(瀬戸康史)にミックス(混合ダブルス)のパートナーに誘われるが、裏切りに遭い、さらなる失意のどん底に。

 瑛太演じる萩原は日本ランカーとして将来を嘱望されたボクサーだったが、ケガで引退。その後は仕事を転々としながら妻子にも愛想を尽かされて離婚。建設現場で働きながら、元のさやに収まることを夢みている。

 そんな2人がひょんなことで出会ってミックスを組み、瀬戸演じるスター選手とこれまた新進スターのパートナー(永野芽郁)の黄金コンビに戦いを挑む物語だ。

 スター2人は絵に描いたように軽薄で嫌みな空気を発散している。この敵役を注目株の永野が楽しそうに演じている。意外にこっちの方が得意なのかもしれない。

 新垣、瑛太の好感度カップルが、「いい人」ゆえの落ちこぼれを演じているわけで、その不器用、純情にはぐいぐい引き込まれる。敵役のキャラも立ち、気持ちいいほど一直線に感情移入できるのがこの作品の妙味といってもいい。

 2人の「武者修行」の過程で登場する対戦相手はそれぞれ劇画的なキャラで、一々テロップで「戦闘タイプ」が表示されるゲーム的演出も分かりやすい。

 広末涼子、遠藤憲一…周囲にも濃い個性が並び、行きつけの中華料理店の店員役で蒼井優が顔を出し、これが後半恐るべき一面をむき出してストーリーにかんでくる。サービス精神は隅々にまで行き渡っている。

 「リーガルハイ」でもメリハリを効かせた爆笑場面の奥に人情の機微や時代風刺がそっと織り込まれていたが、古沢脚本は今回も格差社会の理不尽をさりげなく描き出す。

 何より見終わった後に気持ちよくなる作品で、娯楽映画のツボは最後までしっかり押さえられている。【相原斎】