原田真人監督は「岡田准一さんは超一流の武芸者が俳優のふりをしているような人」と評している。

司馬遼太郎のロングセラーを映画化した「燃えよ剣」(近日公開)は、この言葉に象徴される地に足の付いたリアリティーがある。

岡田准一が演じるのは新選組副長・土方歳三。MCを務める歴史番組「ザ・プロファイラー」で土方を取りあげたのが13年の秋で、この時から「この人物を演じるかもしれない」と思っていたそうだ。

映画では武州多摩でバラガキ(ならず者)と呼ばれた頃から、蝦夷地五稜郭の戦いまで描かれるので、その成長に寄り添って土方になりきっている。作品資料には「役を演じるとき、その役にどれだけ愛されるかが最後のカギになっていくと思いますが、ごくまれに、役柄が振り向いてくれるときがある。土方歳三を想い続け、考え続け、調べ、そして演じて…土方さんがほほ笑んでくれた気がします」とコメントを寄せている。

映像からはそんな思いが伝わる。武骨な剣法、不格好な歩き方、そして近藤勇(鈴木亮平)や沖田総司(山田涼介)との揺るがぬ友情…バラガキ時代から変わらないものと時代によって変わっていく部分が生身の人物像に結ばれている。

新選組といえばあさぎ色の羽織のイメージだが、原田監督はこの俗説を避け、「黒い軍団」として描いている。激動の時代に身を置いた彼らの覚悟やすごみには確かにこちらの方がマッチする。世界遺産の仁和寺、二条城…国宝の吉備津神社、石清水八幡宮など60カ所のロケ地、池田屋を再現するセット-背景はぜいたくで隙がない。

完璧な環境の中で、岡田は殺陣も担当している。沖田の三段突きや左利きの斎藤一(松下洸平)の動きなど、それぞれの個性が立って岡田コーディネートのクオリティーは高い。一番の見せ場は土方が初代局長・芹沢鴨(伊藤英明)と刃を交える参道のシーン。伊藤の身体能力も相まって、ハラハラさせるスピード感だ。

原田演出は芹沢が実は新選組一の使い手であったという情報も巧みに織り込み、緊張感を高める。さらには芹沢の優しい側面にも光を当て、彼に限らず多面体の人物造形はきめ細かい。

土方の思い人お雪に柴咲コウ。この恋愛関係が1本の軸になり、土方の生き方もストーリー展開も分かりやすくしている。

原田監督の「関ケ原」(17年)は細部へのこだわりが強すぎてやや散漫な印象があったが、今作は2時間28分を短く感じ、土方の半生がすっと心に染みてきた。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)