06年のデンマーク映画「アフター・ウエディング」はアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされ、世界的に注目された。

2月12日公開の「秘密への招待状」は、このハリウッド版で、インドの児童養護施設と対比的に登場する大都市はコペンハーゲンからニューヨークに、養父と実父の主人公2人は養母と実母に置き換えられている。背景の変化も感情の振り幅もより大きくなり、心震わす物語はさらにダイナミックに輪郭もくっきりと伝わってくる。

インドの養護施設で救援活動に身をささげているイザベル(ミッシェル・ウィリアムズ)は、多額の寄付金の申し出があったためニューヨークに赴くことになる。施設では、周囲になじめない1人の少年が心配で、この出張は最短で切り上げたいというのが本音だ。

が、ニューヨークで待っていた資産家のテレサ(ジュリアン・ムーア)は、何かと話を引き伸ばし、娘グレイズ(アビー・クイン)の結婚式に出席して欲しいという。やむを得ず結婚式に出席したイザベルは、そこでテレサの夫がかつての彼女の恋人オスカー(ビリー・クラダップ)であること、そして花嫁グレイズは生き別れた自分の娘であることを知る。

テレサの思惑は? そこには夫や娘さえ知らなかったもう1つの秘密があり、運命は思いもしない方向に転がり始める。

インドの養護施設と取り巻く自然を俯瞰(ふかん)するオープニング。ロケ地の南インド・カライクディは上空から見るとリゾート地のように美しい。石造りの貯水池の淵で瞑想(めいそう)するイザベルと子どもたちも幸せそうに見える。が、やがて地上に降りたカメラは粗末な施設や生活必需品にも事欠くトラックの空の荷台を映し出す。

メガホンはムーアの夫であり、「ウルブス」(16年)などで知られるバート・フレインドリッチ監督。セリフを絞り、巧みなカメラワークで引き込む。いつの間にか状況が理解できる。

贅を尽くしたニューヨークのホテル、結婚式が行われるテレサの邸宅はインドの養護施設と対照的で、富の偏在を嫌というほど印象づける。

相手を圧倒するムーアの目力とウィリアムズのなで肩と涼しい目がしっかりと役柄を映し、一代で富を築いたテレサの敏腕と、物欲とは無縁のイザベルの献身のコントラストを浮き上がらせる。

環境はまったく違ってもこの4人の人物がそれぞれの良心に従って生きているところがこの作品のミソで、思い通りにならない運命、それでも前を向かなくてはならない人生、という普遍のテーマが貫かれている。

オリジナル版の骨格を守りながら、ていねいに肉付けされた良心的なリメーク作品だ。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)