8年前に公開された「7番房の奇跡」は、親子愛を描くファンタジックな作品だったが、韓国ではよく知られた冤罪(えんざい)事件が元になっている。

9月17日公開の「偽りの隣人 ある諜報員の告白」もフィクションと強調されてはいるが、幾多の妨害工作や命の危険を乗り越えて大統領になった金大中氏をモデルにしていることは明らかだ。イ・ファンギョン監督は実際にあった事件の骨組みを変えずに、そこに振幅の大きな人間ドラマを絡めていく作業がうまい。

いちずなデグォンは国家に忠誠を誓い、「国家安全政策部」の一員として身を粉にして働いている。軟禁されている野党の次期大統領候補ウィシクを隣家から監視するのが現在の任務だ。上司のキム部長は猜疑心(さいぎしん)が強く、ウィシクを失脚させるためには手段を選ばない。ウィシク宅に忍び込み、反逆罪の「証拠」を仕込むようデグォンに命じる。

不本意ながら命令に従うデグォンだが、「盗聴」を通じて知るようになったウィシクの人格者ぶりと、その家族の温かさにしだいに引かれていく。キム部長のミッションはますますエスカレートし、ウィシクや家族の命が危険にさらされるに至ってデグォンは決意の行動に出るが…。

こう書くとシリアス一辺倒の展開をイメージするかもしれないが、デグォンと部下たちの「スパイ活動」はコミカルに描かれ、随所で笑わせる。強権国家のバカバカしさを浮き彫りにするとともにエンタメ性をアップするファンギョン監督らしい演出だ。

デグォン役は「レッド・ファミリー」のチョン・ウ。ひたすら命令に従う前半のちょっと抜けた顔から、しだいに二枚目然となっていく後半にギアチェンジする。ウィシク役のベテラン、オ・ダルスの懐深い演技とのコラボが一番の見どころだ。

キム部長を演じるのが巧者キム・ピョンチョルで、この悪人ぶりが作品のアクセントになっている。

終盤はコミカルな味わいを消し、畳み掛ける展開だが、ラストの「奇跡」に心がポッと温まる。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)