フランス北部の田舎町の日だまりで家族と笑顔で戯れる7歳のサシャ。どう見てもかれんな少女だが、生まれた性別は男性である。

姉兄そして弟の4人兄弟でサシャは3番目だ。優しくて知的な母、武骨な父も含め、家族はサシャの個性の良き理解者だが、保守的な学校もバレエ教室も彼女に「男性」としての生活を強いている。

ドキュメンタリー映画「リトル・ガール」(19日公開)は、学校や社会にサシャの個性を認めさせるための家族の戦いを追っている。

今年6月、建築デザイナーとして働くトランスジェンダー女性、サリー楓さん(27)にインタビューする機会があった。彼女の場合も同じ7歳の頃にはぼんやりとした違和感を覚えていたという。

「幼稚園では男女区別無く一緒に遊ぶじゃないですか。それが小学校に上がった途端に男の子と女の子で競技が違ったり、配られるお道具箱の色が青とピンクに分かれたりする。何で私はこっち側なんだろうって。自分は違うんだと思った最初の瞬間だったのかもしれません」

トランスジェンダーへの認識は少しずつ高まっているように思うが、幼い頃から居心地の悪さ、心の痛みを感じていたのだ、と改めて考えさせられた。

サシャの場合はもっとはっきりしていて、2歳の頃から母親に自分は女の子だと訴えていたという。映画はワンピース姿でくつろぐ自宅のサシャと、1人だけ男の子の衣装を着けさせられたバレエ教室の沈んだ表情を対照的に映し出す。

サシャの前では明るく振る舞う母親も、産むときに自分が「女の子」を望んだことが影響したのではないか、と罪の意識を持っている。パリまで出掛けて「専門医」に行き着いた母娘はようやくサシャの個性について医学的認定を受ける。医師は「100%母親に責任は無い」とも断言する。

じっといい子にしていたサシャが医師の真っすぐな目に、たまったものがあふれるように流す涙が印象的だ。「7歳の心中」を想像するだけで胸が締め付けられるような気がした。

木で鼻をくくったような学校の対応は、専門医の診断書によって少しずつだが、変わり始める。夏休み明けの新学期にサシャは女の子として登校できるのか。後半は学校とのやりとりにハラハラさせられる。

取材拒否なのだろう。学校に入ることのないカメラは、家族の反応からその白熱の様子を伝える。カンヌ、ベルリン映画祭の常連であるセバスチャン・リフレッツ監督は、忍耐強く、ていねいに家族の心の変化をすくい撮る。

長女はサシャを守るために強い姉になると誓う。いつもサシャに寄り添う年の近い長男は彼女の水着姿に照れ笑いする。そんな愛情あふれる場面のあれこれは、順風満帆とはいかないであろうサシャの将来に明かりをともしてくれる。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)