カンボジア難民としてアメリカに渡ったハイン・S・ニョールが、映画初出演にしてアカデミー助演男優賞に輝いた「キリング・フィールド」(84年)は記憶に残る1本だ。ジャーナリストと現地通訳の間に生まれた戦地の絆が感動的だった。この作品を思い出したのは、今作が兵士と通訳の、より強固な関係を題材にしているからだ。

4年前の夏、米軍のアフガニスタン撤退に際し、巨大なC-17輸送機の離陸に多くの人が群がるニュース映像を覚えている方は少なくないだろう。残されればタリバンに追われて命はない。この米軍協力者の中には多くの現地通訳がいたという。

ユーモラスなクライム・アクションで知られる英国出身のガイ・リッチー監督もこの映像にショックを受けた1人で、いくつかの実話をもとに紡ぎ出したのが「コヴェナント 約束の救出」(23日公開)だ。これが初めて挑む戦争映画、社会派ヒューマンサスペンスとなった。

舞台はあのニュース映像の3年前の18年。01年の同時多発テロ以来、米国はアフガニスタンに派兵を続けている。

ジョン・キンリー曹長(ジェイク・ギレンホール)の任務は、タリバンの武器や爆薬の探索だ。住民からの情報収集に現地通訳は欠かせない存在で、彼は候補者の中から頑固者だが優秀なアーメッド(ダール・サリム)を指名する。

探索作戦に率直な疑問や意見を言うアーメッドを当初は煙たく感じるキンリーだが、やがてそれが的を射ていることが分かり、信頼関係が深まっていく。が、そんなある日、探索先でタリバンの大軍に襲撃を受け、キンリーとアーメッドを残して部隊は全滅。基地から遠く離れたタリバン支配地域で2人は追われる身となってしまう。

2人きりの「地獄の行軍」の序盤、キンリーは重傷を負って自力では歩けなくなる。機転の利くアーメッドは手押し車を入手するなどして、意識もうろうとするキンリーを抱えながら100キロ余りを走破。奇跡の帰還を遂げる。

米国の家族の元に帰ったキンリーは、アーメッドと妻子がタリバンに追われ、身を隠していることを知る。いてもたってもいられなくなったキンリーは、民間軍事会社の手引きで再びアフガニスタンを訪れるが…。

映画は、序盤の武器探索ミッション、中盤の逃亡劇、そして救出ミッションのいわば「三部構成」で、リッチー監督はそれぞれにヤマ場を用意。見応え3倍のぜいたくな作りになっている。

得意なクライム・アクションの拳銃をライフルや重火器に置き換えた戦闘シーンは見事にスケールアップされている。キンリーやアーメッドの的中率がやや高すぎる気がするが、それこそがリッチー流のエンタメ性なのだろう。

入念なリサーチも行われたようで、作品資料では共同通信カブール支局通信員の安藤浩美さんが「何げない現地の人の言葉も自然に使われ、細かいところまでリアルに作られている」とお墨付きを与えている。

リッチー作品お決まりのユーモアを今作では封印。「誰かが自己犠牲を払って自分を救ってくれたら、それは心地よい重荷であるとともに不快なほどの重荷でもある」という考え方から、帰国後のキンリーの苦悩をこれでもかと描写している。ギレンホールとサリムが監督の思いに応えるメリハリの効いた演技で絆の深さを実感させる。

クライム・アクションで毎度ユーモラスに描かれる「仲間意識」が、今作では思いっきり熱く、シリアスに昇華されている。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)