世界中を席巻している「ジョーカー」は、映画を見た人々が主人公に感情移入して犯罪に走るのではないかと懸念されるなど社会問題にまで発展していますが、見た人の多くが主人公のアーサーことジョーカーを演じたホアキン・フェニックスの神がかった演技を絶賛しています。しかし、「スタンド・バイ・ミー」(86年)で一世を風靡(ふうび)しながらも23歳の若さで1993年に早世した伝説のスター、リバー・フェニックスを兄に持ち、姉と妹もかつて女優をしていた役者一家に生まれ育ったフェニックスが、“リーフ・フェニックス”という芸名で子役として活躍していたことなど意外とこれまであまり知らなかったという人も多いのではないでしょうか。12歳の時に「スペースキャンプ」(86年)で映画デビューし、その後はキアヌ・リーブスと共演した「バックマンの家の人々」(89年)など数本の映画に出演した後に一時俳優業を休業したものの、兄の死後に復帰して再び映画界に舞い戻ってきたフェニックスの過去の代表作を紹介します。これを機に演技派フェニックスの出演作をチェックしてみてはどうでしょう。 

「誘う女」(95年)

兄リバー・フェニックスが出演した「マイ・プライベート・アイダホ」(91年)でメガホンを取ったガス・ヴァン・セント監督のサスペンススリラー「誘う女」は、ホアキン・フェニックスの名で出演した映画復帰作。ニコール・キッドマンが高校生に色仕掛けして夫を殺害させる悪女を演じた話題作でもあり、ホアキンの名を世に知らしめた作品です。

「Uターン」(97年)

オリバー・ストーン監督がメガホンを取ったサスペンス「Uターン」では、ショーン・ペン、ジェニファー・ロペス、ニック・ノルティら豪華な俳優陣と共演し、クロトゥルディス映画祭助演男優賞にノミネートされました。

「グラディエーター」(00年)

アカデミー賞作品賞に輝いた「グラディエーター」でローマ皇帝コモドゥスを熱演したフェニックスは、アカデミー賞主演男優賞を受賞したラッセル・クロウを食う勢いの演技が絶賛され、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされたことで一気に知名度がアップ。憎き皇帝を演じたフェニックスの熱演ぶりは今も多くの人々の記憶に焼き付いています。

「ウォーク・ザ・ライン/君に続く道」(05年)

実在するカントリー歌手ジョニー・キャッシュを演じた「ウォーク・ザ・ライン/君に続く道」で、ゴールデングローブ賞を受賞した他、アカデミー賞主演男優賞にもノミネートされ、「演技派」としての地位を確立。アカデミー賞主演女優賞に輝いたリース・ウィザースプーンと共に劇中では歌声も披露して絶賛されました。

「容疑者、ホアキン・フェニックス」(10年)

俳優を引退して突然ヒップホップ歌手に転向すると宣言して世間を驚かせたものの、実はケイシー・アフレックが監督を務めたフェイク・ドキュメンタリー「容疑者、ホアキン・フェニックス」の仕掛けだったことが発覚。2年間にわたって世間をだまし続けた大掛かりなドッキリは大ヒンシュクを買いましたが、この頃から個性派俳優としての一面も見せるように。

「ザ・マスター」(12年)

「ザ・マスター」では新興宗教に洗脳させる心に傷を負った退役軍人を熱演し、ベネチア国際映画祭で最優秀男優賞を受賞するなど世界各地の映画祭で主演男優賞を受賞し、俳優として高い評価を受けた作品。カリスマ教祖を演じた名優フィリップ・シーモア・ホフマンとの演技バトルも注目です。

「her/世界でひとつの彼女」(14年)

スパイク・ジョーンズ監督がメガホンを取ったアカデミー賞ノミネート作「her/世界でひとつの彼女」では、人工知能に恋をしてしまう不器用な男を熱演し、純粋でキュートな演技は多くの人の共感を誘いました。

「ビューティフル・デイ」(17年)

年老いた母親と暮らしながら行方不明者の捜査を請け負う元軍人を演じた「ビューティフル・デイ」では、緊張感あふれる演技が絶賛され、カンヌ国際映画祭で主演男優賞を受賞。「ジョーカー」以前の作品としては過去最高の演技と絶賛されたフェニックスの代表作の一つです。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)