より感染力の強い新型コロナウイルスの変異種「デルタ株」が猛威を振るうアメリカで、ハリウッドのエンターテインメント業界がワクチン接種の義務化に舵を取ることができるのか注目されています。

デルタ株による感染拡大を受け、カリフォルニア州では州の職員と医療従事者へのワクチン接種義務化を発表しており、ハリウッドのお膝元ロサンゼルス(LA)でも市の職員に対してワクチン接種証明か、定期的な検査での陰性証明を求める方針を発表。それに追随するように大手企業も従業員へのワクチン接種義務化を促進し始めています。

IT企業大手のグーグルやフェイスブックは先月、リモートワークから職場に戻る従業員に対してワクチン接種を義務付ける方針を通達したと報じられ、ツイッターもオフィスで働く従業員に対してワクチン証明書の提示を求めるなど、シリコンバレーでは接種義務化の動きが加速しています。

ハリウッドでも徐々にそうした動きが出始めており、ウォルト・ディズニーは先週、フロリダ州にあるディズニーワールドとカリフォルニア州のディズニーランドで働く全職員に対し今後60日以内にワクチン接種を終えるよう通達し、新規雇用者にはワクチン接種完了を雇用条件にすることを発表。動画配信大手のネットフリックスも、アメリカ国内で製作する作品に関わる全ての俳優と、俳優と接触する現場「ゾーンA」で働くスタッフ全員にワクチンを義務化することが報じられています。

一方で、映画やテレビの撮影現場では「ゾーンA」以外の場所でも多くのスタッフが働いており、現状では100%感染を防ぐことは難しく、複数の作品で陽性者が出て再び撮影が中断される事態が起きています。

HBOの大ヒットドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」の前日譚として期待のドラマ「ハウス・オブ・ザ・ドラゴン」や、Huluの「ウォーク」などでコロナの感染者が出たことで撮影が一時中断されたことが明らかになっているほか、メキシコで撮影中のジェイミー・フォックス主演の「ゴッド・イズ・ア・ブレット」でもワクチン接種済みの俳優が検査で陽性になっています。

また、コロナ禍でこれまで度々撮影が中断されてきたトム・クルーズ主演の「ミッション:インポッシブル」シリーズ第7弾の英国ロケでも再び感染者が出ており、撮影を再開させた業界にとってデルタ株は新たな脅威になっています。

こうした状況に、「職場での安全が守られていない」と苦言を呈し、全スタッフへのワクチン義務化を求めるスターも出てきています。コロナ禍が始まって以降、LA市とタッグを組んでPCR検査場や大型ワクチン接種場の運営を一手に引き受けてきた非営利団体コアを率いるショーン・ペンもその一人。

ショーン・ペン
ショーン・ペン

全スタッフを対象としたワクチン接種の義務化を進めない業界の対応に不満を漏らし、自身が主演するドラマ「ガスリット」の出演者とスタッフ全員がワクチン接種を完了するまで撮影現場に戻らない意向を示しています。自身はワクチン接種済みであるペンは、自らの感染を心配してのことではなく、未接種のスタッフから感染が広がることで撮影全体に及ぶ影響を懸念してのことだと言われています。

また、シャロン・ストーンも自身の出演する作品に対して同様にスタッフと出演者全員のワクチン接種を求めており、実現しない限り現場には行かないと話しています。

ハリウッドの組合と主要なスタジオが集まって協議を行い、ゾーンA内に出入りする俳優とスタッフに対し、プロダクションごとにワクチン接種の義務化を行うことが可能になったと伝えられていますが、より強い全スタッフへの義務化には踏み切れないのが現状です。

リベラル派が圧倒的多数のハリウッドでは、ワクチン反対派は少数ではあるものの、アメリカ全体でみるとワクチン接種に懐疑的な人は依然として少なくなく、「接種するかしないか個人で選択する権利がある」と憲法上の権利の侵害を主張する人もいます。社会的な反発が強いだけでなく、訴訟リスクなどもあることから義務化に踏み切るのは容易ではないと言われています。もちろん、健康上など医学的な理由や、宗教上の理由で接種できない人に対しては免除が認められていますが、それでもなお「ワクチン証明がなければ働けません」と雇用条件に加えることには抵抗感を持つ人は少なくないようです。

感染の再拡大が止まらない中、ハリウッドが率先してワクチン義務化を打ち出すことができるのか今後の対応が注目されるところです。【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)