トークは、「話し方」はもちろん、「内容」、「構成」、「語彙」、「言葉選び」、そして「声」…様々な要素が組み合わさっています。トークレッスンでは、全ての要素において、その方の魅力が最大限に生きるトークを目指し、タレントやアイドルの方に向けては特に、放送やイベントで自分らしく輝けるように、レッスンを行なっています。トーク編第46回、「トークレッスンで驚かれることベスト3〜タレント編〜」。


■タレントのトークの悩み■


アイドルやアーティスト、タレントや声優の方に、トークレッスンを行うと、「そういうことか!」「知らなかった!」とリアクションいただけることが多く、中でも「断然楽になった!」と言ってもらえるととても嬉しいです。

そんな、タレントさん向けトークレッスンで驚かれることを、今回はベスト3形式でご紹介します。まず、第3位は「口って大きく開けなくていいんですか!」。


大喜利イベントでMCを務める五戸美樹(2019年6月)
大喜利イベントでMCを務める五戸美樹(2019年6月)

■第3位:口の開き方■


アイドルの方も女優の方も、放送やイベントに出ると、言いづらい言葉が言えなかったり、滑舌が“甘く”なったりすることがあります。そんな時、必ずと言っていいほど受ける指摘が「もっと口を大きく開けたほうがいい」。

真面目な方ほどそれを信じてしまい、さらに滑舌が悪くなるという負のループにはまりがちです。

このコラムでは何度かお伝えしていますが、話す時に口を大きく開けるのは間違いです。大きく開けると、舌や唇の動きが追いつかなくなりますので、滑舌はますます悪くなります。口元はだらんと力を抜いて、やや開く程度でOK。力まずになるべくハッキリ話そうとすると、口の中で舌や歯が動き(マ・バ・パ行では唇を動かして)、子音の音がクリアに出るようになります。

言いづらい言葉は、サ行とラ行や、タ行とザ行の組み合わせなど、舌の動きが忙しい時や、マ行音が続くような唇の動きが忙しい時です。例えば「お知らせです」「美術好き」「まめまき」など。言いづらい言葉は特に口を大きく開けないようにすることで、言いやすくなります。

なお、これは自然に話す時のことで、ストレッチのために大きく開くことや、歌の表現として大きく開くことは多々あります。

タレントさんにトークレッスンで驚かれること第2位は「台本ってあってないようなものですね!」。

文化放送「走れ!歌謡曲」スタジオにて
文化放送「走れ!歌謡曲」スタジオにて

■第2位:台本の読み方■


放送やイベントには台本があることがほとんど。ですが、台本通りにいくことはほとんどありません。ちなみに、私の担当している『走れ!歌謡曲』は台本もありません。

しかしこれもまた、真面目な方ほど一言一句台本通り読んでしまいがち。朗読劇ではないので、自分の言葉に変えていいんです。特にイベントは、作家さんではなくイベンターさんが台本を書いている場合も多く、流れを記しているもので、言葉尻まで指定しているものではないことが多いです。

例えば、高校生向けのイベントなのに「本日はご多忙の中ご来場いただき、誠にありがとうございます」と書いてあったら、硬い言葉を柔らかく、「皆さんこんにちは〜!お越しいただきましてありがとうございます!」と言い換えてOK。

言葉だけでなく、内容を変えることもあります。ゲストとのトークで、台本に書いてない質問をすることもありますし、その場で気になることや盛り上がりそうなことを加えることもよくあります。もし、“際どい質問”をしたい場合は事前に確認するほうが安全ですが。

大事なのは、「変えていいこと」と「変えてはいけないこと」を区別できるようになること。人の名前や番組名は間違えないほうがいいですし、内容も、スライドがある時は順番を入れ替えないほうがいいです。

タレントさんにトークレッスンで驚かれること第1位は「自然にしゃべる、の意味がわかりました!」。

J-WAVE『GROOVE LINE』スタジオにて
J-WAVE『GROOVE LINE』スタジオにて

■第1位:人前での話し方■


放送もイベントも、「ナレーション」以外はフリートークとして、自然に話すのが魅力的。その人の個性も出ますし、何より話す自分が楽です。ただ、放送の時に自然に話しているか自分でチェックするのは少し難しい。

そこで私がトークレッスンで行うのが、生徒さんとなにげなく会話している時に録音を回し、放送の時の声や話し方と聴き比べる方法。(ここにこれを書いてしまうと、次回から警戒されそうですが)(もちろん録音をその方のレッスン以外で使うことはありません)普段の会話を聞くと、いかに放送の時に“作っている”か、気づくことが多いです。放送の時のほうが声が甲高くなっていたり、フリートークなのに朗読調になっていたり。普段の会話のほうが楽な声で、“話し言葉”で話していることがわかります。

“話し言葉”には“無駄な言葉”が入ってきます。「〜ですね」「〜ですけれども」「〜で」など。放送でもこの“無駄な言葉”を利用して話すことで、自然に話しているように聞こえます。(なので放送の文字起こしは読むのが大変なのです)

また、普段の会話で気になることは、放送でも気になることです。例えば、普段からオーセンティックボイスよりも高音で話していたり、なんでも「すごい」と言ってしまったりする場合です。それには、普段、無意識でしている会話を、意識的にすることで、少しずつ普段のトークが良くなり、それはそのまま放送に生きることになります。

【五戸美樹】(ニッカンスポーツ・コム芸能コラム「第70回・元ニッポン放送アナウンサー五戸美樹のごのへのごろく」)

【参考図書】

山崎広子先生の著書『8割の人は自分の声が嫌い 心に届く声、伝わる声』(角川新書)、『人生を変える「声」の力』(NHK出版)、『声のサイエンス あの人の声は、なぜ心を揺さぶるのか』(NHK出版新書)、『相手に届き 自分を変える 心を動かす「声」 になる』(大和書房)。

拙著『人前で輝く!話し方』(自由国民社)でもトークについてまとめています。