9日に亡くなった作家野坂昭如さんが大の宝塚歌劇団ファンだった。「無頼派」のイメージにちょっとそぐわないが、少年期に宝塚歌劇団の本拠がある宝塚市に近い神戸市で育ち、宝塚の舞台もよく見ていた。

 そして、妻の暘子さん、2人の娘も宝塚歌劇団に在籍していた。暘子さんは「藍葉子」の芸名で59年に入団した。成績は上位6番目に入る期待の娘役だったが、62年に野坂さんと結婚するため、わずか3年で退団した。現在エッセイストとして活躍する野坂麻央さんも「花景美妃」の芸名で84年に入団し、86年に退団した。小さい頃から両親に連れられて宝塚の舞台を見ており、「ベルサイユのばら」にあこがれて宝塚受験を決意。野坂さんに打ち明けたところ、「好きなことをやりなさい」と応援してくれたという。次女の亀井亜未さんも「愛耀子」の芸名で93年に入団し、娘役として活躍。06年に歌舞伎囃子方の13代目田中傳左衛門と結婚するため、退団した。

 退団後も暘子さんはシャンソン歌手、亜未さんも女優として活動した。野坂さんも作家だけでなく、映画やCMに出演し、シャンソン歌手クロード野坂として「黒の舟唄」のヒット曲を持ち、若い頃には野末陳平と漫才コンビ「ワセダ中退・落第」を組んだこともあった。遠い親戚には怪優伊藤雄之助もいる、野坂家は芸能ファミリーでもあった。【林尚之】