20年に開催される東京五輪の開会式・閉会式など式典演出チームの8人が発表された。映画界からは山崎貴監督、川村元気プロデューサー、音楽界からは歌手椎名林檎のほか、ソフトバンクのCM「白戸家シリーズ」の佐々木宏氏、「恋ダンス」などの振付で知られるMIKIKOらが選ばれましたが、演劇界からは狂言師で俳優の野村萬斎しかいませんでした。

 98年の長野冬季五輪の総合演出は演出家浅利慶太氏が務めましたが、最近は映画監督が担当するケースが多かった。08年の北京五輪では映画「紅いコーリャン」などで知られるチャン・イーモウ監督が手掛け、12年のロンドン五輪では映画「スラムドッグ$ミリオネア」のダニー・ボイル監督が総合演出を担当し、開会式の予算は2700万ポンドでした。16年のリオ五輪では、米アカデミー監督賞候補となった映画「シティ・オブ・ゴッド」のフェルナンド・メイレリス監督が担当しました。

 映画監督の起用は自然な流れなのかもしれないが、来年2月の韓国・平昌冬季五輪の開会式・閉会式を演出するのは気鋭の演出家ヤン・ジョンウンです。現在、日本で上演中の日韓俳優が出演する舞台「ペール・ギュント」を演出しています、それと比べると、演劇界からのメンバー入りは伝統芸能の萬斎だけというのは何とも寂しい限りです。

 故蜷川幸雄氏が元気だったら、当然、メンバーに入っていたでしょう。84年のロサンゼルス五輪の開会式を見た後に感想を聞いた時に「嫉妬するね。うらやましいよ」という言葉が印象に残っています。ただ、12年のロンドン五輪直後に、「20年の東京五輪開催が決まったら、開会式の演出をしてください」と勝手にお願いしたところ、「バカっ。20年にはオレは80歳を超えているぞ」と一蹴されてしまいましたが…。

 演劇界には一時は下馬評で名前が上がっていた野田秀樹、自ら開会式の演出をしたいと公言していた宮本亜門らの演出家がいますが、残念ながら、メンバーから漏れてしまいました。蜷川さんが亡くなって1年半。演劇界は蜷川さんのような中心軸となる存在がいない状態が続いていますが、今回のことも、そういう状況を象徴しているかもしれません。   【林尚之】