このところ、テレビでよく見る落語家がいる。落語芸術協会所属の昔昔亭A太郎(43)。新宿・末広亭を舞台にしたアディーレ法律事務所のCMだ。

A太郎はテレビ制作会社のADを経て、昔昔亭桃太郎に弟子入りし、落語界初のアルファベット名真打ちとして、昨年真打ちに昇進したばかり。コロナ禍の影響で真打ち披露興行が延期となったり、予定した落語会が中止となる中、「YouTubeやラジオ配信を始めたり、いろいろなことを始めました」。

そんな時に、末広亭を舞台にしたCM出演の話が舞い込んできた。高座から「過払い金の返還請求」や「債務整理の相談」などについて落語風に語り掛けるもので、「身近がよろしいようで」シリーズ3本とラジオ用の5本を終演後の末広亭で夜10時から朝6時まで撮影・収録したという。「今しかできないことだから、やってみようと思いました。末広亭は普段から上がっているところなので、緊張しないだろうと思っていたんですが、場内に何台もの撮影用のカメラやいろいろな機材が並んでいて、最初は緊張しました」と振り返る。

A太郎は180センチの長身で、駒沢大時代はアメフト部に所属したイケメン落語家。そのため、末広亭の高座に上がってのCMにもかかわらず、「落語家役をしている俳優さんは誰ですか」との問い合わせもきたほどだったという。「僕がメーンで、あんなにたっぷりとテレビで流れるとは思っていませんでした。でも、出演したおかげで、いろいろな方から『CMを見ましたよ』と声をかけられるようになりました」。

古典とともに、新作も10作ほど持つ二刀流で、日本舞踊(花柳流)に加えてタップダンスも習っている。11月28日の大師匠春風亭柳昇門下の直弟子・孫弟子が大集合する「柳昇一門会2021」では、トリの春風亭昇太の前の出番でタップダンスを披露するという。

そして、10月の浅草演芸ホール下席後半(10月26~30日)夜の部でトリをとることが決まっている。「真打ちになって、トリをとることが目標だったんですが、思っていたよりも早く決まって、しかも浅草演芸ホールで、身が引き締まる思いです。皆さんが楽しんでもらえるように今できることでしっかりと頑張りたいと思います」。A太郎が今、勢いに乗っている。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)