当初予定より2年半遅れで行われた歌舞伎座の「13代目市川團十郎白猿」襲名興行も26日に盛況のうちに終わりました。全日が完売とならず、空席がある日もありましたが、一部に書かれた「閑古鳥が鳴く」は言い過ぎでしょう。また、「口上」を11月19日から体調不良で休演していた松本白鸚が千秋楽に復帰したのも朗報でした。4月に予定される「ラ・マンチャの男」が待ち遠しくなります。

そんな2022年の演劇界の締めくくりにちょっと衝撃的なニュースが駆け巡りました。気鋭の演出家である谷賢一氏(40)と宝塚歌劇団の人気演出家だった原田諒氏(41)のセクハラ、パワハラ問題でした。谷賢一は主宰する劇団の所属女優から訴えられ、原田諒は演出助手から告発されて明らかになりました。

谷氏が演出する舞台「家を壊す」は主催者の判断で12月16日の初日直前に公演中止となり、谷氏は所属する事務所から契約を解除されました。原田氏は脚本・演出を手掛けた雪組公演「蒼穹の昴」千秋楽翌日の12月26日付で宝塚歌劇団から退団しました。

谷氏はセクハラ、パワハラを否定し、法廷の場で争う姿勢を見せており、原田氏はコメントなどを出していません。現時点では訴えの真偽は不明ですが、ただ言えることは、谷氏も原田氏も今後の仕事に大きな影響を受けるでしょう。舞台制作関係者は「これで谷氏に新たに演出を依頼することは難しくなった」と話しています。原田氏も20年に潤色・演出を担当した舞台「おかしな二人」が4月に再演されますが、公式サイトでは潤色に名前が残っていますが、演出は未定となっています。谷氏は岸田圀士戯曲賞、鶴屋南北戯曲賞、原田氏は菊田一夫演劇賞、文化庁芸術祭新人賞を受賞する実力派ですが、セクハラ、パワハラの代償は大きいと言えるでしょう。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)