作品全体を貫く「怒り」のボルテージが半端じゃない。怒りにまかせて暴走するヒロインは、「敵」をたたきつぶそうとする。容赦のない暴力描写に目を背けたくなる人もいるだろう。

 米ミズーリ州の架空の田舎町エビング。娘を惨殺された主人公ミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)は進展しない捜査に憤り、町外れの道路脇にある巨大な3枚の立て看板に広告を掲載する。「娘はレイプされて焼き殺された」「犯人はまだ捕まっていない」「なぜ? ウィロビー署長」。看板は田舎の素朴な警察署長(ウディ・ハレルソン)を慕う町の人々の怒り買う。署長を尊敬する人種差別主義者のディクソン巡査(サム・ロックウェル)の行動がきっかけとなり、報復の連鎖が始まる。

 ここから先に起こる出来事はどんでん返しの連続。先が読めない。おそらく観客の予想をはるかに超える。母親の怒りの背景、署長が抱える絶望、巡査の過去…。タイトルを日本語にすると「3枚の立て看板」。普段、看板の裏側はだれも見ない。映画は3人の裏にある素顔、内面を描く。単純な善人もいないし、悪人もいない-。メッセージも半端じゃない。【松浦隆司】

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