優柔不断な不倫男、冷徹な殺し屋、男娼(だんしょう)、隠蔽(いんぺい)された真実に揺れ動く官僚…。社会派映画から時代劇までイメージを裏切る役柄に次々と挑戦する松坂桃李が、また新たな顔を見せている。今回は、モーニング娘。ら「ハロー! プロジェクト」に青春をささげるアイドルオタクだ。

漫画家でミュージシャンの劔樹人(つるぎ・みきと)の自伝的コミックエッセー「あの頃。男子かしまし物語」の実写映画化。大学院受験に失敗し、恋人もお金もなく、アルバイトに明け暮れるベース弾きのフリーターの劔樹人(松坂)。そんなある日、松浦亜弥の「桃色片想い」のミュージックビデオを見て、強い衝撃を受け、ハロプロのアイドルたちを追いかけるようになる。

長身の背中を少し丸め、自信なさげだった主人公が「好き」を共有できる仲間と出会い、生き生きと「推し」を語る表情は、見ているこちらまで楽しくなってきた。ゲームでもアニメでも歴史でもいい。人生を彩る「推し」という尊い言葉。「あの頃」があったから「いま」がある。松坂の繊細な“オタク演技”にドハマりした。【松浦隆司】

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