ルキノ・ヴィスコンティ監督の「ベニスに死す」は学生時代にリバイバル上映で見た記憶がある。隅々まで巨匠の美意識が行き届いた映像で、ダーク・ボガード演じる老作曲家を、今でいえばツンデレに翻弄(ほんろう)する少年タジオの美しさは強烈だった。

当時15歳。池田理代子さんが「ベルサイユのばら」のオスカルのモデルにもしたビョルン・アンドレセンの回顧録のようにドキュメンタリーは幕を開ける。

記録映像は興味深い。ゲイを公言していたヴィスコンティがオーディションでビョルンを見初めた時のハッとした表情。その場で半裸にされ、ビョルンは驚いたような顔をする。その瞬間から脚光を浴び、「美少年」だった短期間を世界中で「消費された」彼は文字通りの抜け殻となる。

キリストのような風体になった現在のビョルンはほこりが舞い上がるアパートで暮らしている。恋人の助けで「まともな生活」を取り戻すが、中盤でその女性とも別れてしまう。幼少時に失踪した母親の不審死の解明も終盤重くのしかかる。彼の母国スウェーデンのリンドストロム=ペトリ共同監督は容赦なくその波乱の今昔を映し出している。【相原斎】

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