漫才師の筋肉-。今年結成50周年のベテラン漫才コンビ、中田カウス(68)ボタン(69)が、衰えを知らないのは、この「漫才師の筋肉」ゆえだった。

 「僕ら、1週間で二十何回舞台を務めることもあるわけでね。4回公演終わってジム行って、筋トレしてストレッチして、プールで泳いで。そもそもね、漫才師の筋肉もつけなあかん。1回目も4回目も変わらないのがプロやからね」

 本拠地の大阪・なんばグランド花月では、休日には4回公演。1週間あれば、20回以上の出番をこなすことになる。ましてや、合間に営業が入ることもある。ネタの鮮度を落とさず、観客に提供するためには、エネルギーが必要だ。そのモチベーション、2人のコンビネーション、話術、すべてを総合して「漫才師の筋肉」と表現した。

 コンビはここまで半世紀、多様な危機を乗り越えてきた。かつては、やんちゃで鳴らしたボタンさんの方が、アブなかった。借金取りに追われ舞台休演に追い込まれたこともある。ボタンさんのやんちゃが落ち着くと、今度はカウスさんが09年、金属バットで襲撃される事件に遭った。

 カウスさんは襲撃数日後には舞台復帰している。負傷で即座の復帰が危ぶまれたが、ボタンさんは「僕はすぐ戻ってくると思ってた」と、揺るぎない信頼を抱いていたという。復帰舞台では、カウスさんが相方のボタンさんを「お前(が犯人)やろ」とネタにし、爆笑もとった。カウスさんは「相方、お客さんに助けられた」とも話す。

 2人は決して、仲良しではない。仕事以外で、一緒に行動しているところをほぼ見ない。それでも、絶対的な信頼、絶妙の息を2人は持っている。それがコンビ継続の理由だと思う。それはもう「相性」としか言いようがないだろうか。

 カウスさんは、相性の良さを「僕は長男星で、相方は8人兄弟の7番目。長男同士やったらぶつかってたやろうし、どっちも末っ子やったら、周りにつぶされてた」と考えている。ボタンさんは香川、カウスさんは愛媛に1年違いで生まれ、年齢こそボタンさんが年長だが、長男気質のカウスさんがけん引し、絶妙の相性になったのだろう。

 夫婦や兄弟、姉妹の血縁をのぞき、半世紀も続くコンビもまれ。血縁のない男性コンビで、ここまで続けられるコンビもそういない。そこには「相性」に加えて、健康管理への努力もあるようだ。

 2人はともに、いまだジムへ通い、体形維持に努めている。ボタンさんは「この年になったらね、このスタイル、ただでは維持できませんで」と笑った。

 そろいのスーツでマイク前に立つのが定番だった漫才の世界で、デニム姿で漫才を始めた“走り”が、この「カウス・ボタン」だ。漫才師としての“アイドル”の元祖でもある。70歳を目前にした今なお、追っかけ女性ファンもいる。その秘密は、漫才師として、肉体としての「筋肉」に相違ない。【村上久美子】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)