さだまさし(69)が21日に、セルフカバーアルバム「さだ丼~新自分風土記III~」を発表した。映画やドラマの主題歌、CMソングなどを集めた。「北の国から~遥かなる大地より~」「関白宣言」など名曲が並ぶ。コロナ禍を強く意識した。選曲や歌い方に思いを込め、新たにレコーディングした。6月からコンサートツアーを開始する予定で、前人未到のソロコンサート通算4500回まであと26回。来年4月に古希(70歳)を、10月にはデビュー50年目を迎える。ますます意気軒高である。

★定着したブランド「さだ」

「さだ丼~新自分風土記III~」は、19年に発表した「新自分風土記I~望郷篇~」「新自分風土記II~まほろば篇」に続くセルフカバーアルバムの第3弾。「望郷篇」はふるさとの長崎を、「まほろば篇」は奈良を舞台にした楽曲を中心にセルフカバーした。「自分風土記」というタイトルは、日本各地を歌ってきた自分らしいと付けた。「新」は過去の歌唱の収録ではなく、新たに歌い直したことを伝えている。

さだ 今回はタイアップ曲を集めたので、何篇というのも変。冗談半分で「こんな歌を全部聴かされたらおなかいっぱいになっちゃうね。さだ丼ってどう?」と言ったら、スタッフがいいねって。平仮名の「さだ」が、「生さだ」(NHK総合の深夜番組「今夜も生でさだまさし」の略)のように、ブランドとして定着したと評価してくれたのかなと思っています。

収録曲の新たなレコーディングは昨年6月に行った。新型コロナウイルス感染症の時代を強く意識した。

さだ こんなに自分の命と向き合うことは、現代人にはあまりなかったと思います。自分だけでなく、家族の命、父や母の命。家族というものがバラバラになっている現代で、家族って何だったのということを病気が教えてくれていると感じた。主題歌などはたくさんやらせていただいていますが、コロナ禍の中で聴いてふさわしいもの、誰かの心がちょっと楽になるものを選びました。

「しあわせについて」「奇跡2021」「いのちの理由」などメッセージ性の高い曲だけではない。「聖夜」「桃花源」と知る人ぞ知る曲も「今だからこそ何か感じてもらえる」と収録した。「聖夜」はしみじみと命について考えさせられる。「桃花源」は、Iターン(都会から地方へ移住)する人が増え、故郷で頑張って大好きな人を待ち続ける歌も必要と収録した。

さだ 「道化師のソネット」は昨年(歌唱を)随分求められました。(コロナ禍の)こういう時のために書いたわけではないのに、「笑ってよ」のフレーズが聴きたいと思っていただいたのでしょう。

歌い方にもこだわった。落ち着いて聴いてほしい作品は、あえて少しだけ音程を下げて歌った。原曲のイメージを残しつつ、今の声で、今のニュアンスで新たにレコーディングした。

さだ 今でも音域は変わらないので、原曲のまま歌えます。でも髪の毛振り乱して164キロのストレートを投げなくても、158キロでいいんじゃないと思う。9回でもまだ150キロ出るよ、というのが現役と思う。今回のアルバムは、そんな大人の投球が最大限生かされていると思います。

★田中邦衛さんとつながる縁

アレンジも信頼する作曲・編曲家で音楽プロデューサー渡辺俊幸氏(66)と相談して、「さだ丼」バージョンを考えた。「北の国から~遥かなる大地より~」は、アルバムの序曲としてフルオーケストラで収録した。そのドラマ「北の国から」に主演した国民的俳優・田中邦衛さんが3月24日に88歳で亡くなった。

さだ 考えもしなかったことで驚き、悲しかった。くしくもこのアルバムは「北の国から」から始まっています。やっぱりどこかで縁があったのかなと思ってしまいます。

★20代、30代にとって「新曲」

20代から30代の人にも聴いてほしいと願う。さだまさしの世界をリアルに体験してきていない世代だ。

さだ アルバムのほとんどの曲が、僕の大きなお客さんが10代20代だった時代のものです。もちろん「案山子」とか「関白宣言」とか聴いたことあるという子はいると思いますが、まったく聴いたことのない人に聴いてほしい。そういう人には全部新曲です。この時代にその世代が、新曲として聴いて、どう感じてくれるか楽しみです。

これまでのソロコンサートは通算4474回。すでに前人未到だが、節目の4500回まであと26回。「さだ丼」を引っさげてのコンサートツアーは、6月12日の埼玉・川口リリアメインホールからスタート予定で4475回目。

さだ 僕にとって回数は目標じゃないけど、スタッフがお祭り好きなんですよ(笑い)。昨年、4500回記念コンサートを計画したけど、コロナでスケジュールが大幅にずれた。今年もコロナで見えないので、「ほぼ4500回ぐらい記念コンサート」をやろうかって提案しています。本当の4500回はこっそりやろうって(笑い)。

かつて「災害が起きると人は互いに助け合おうと行動する。しかしコロナは人と人を遠ざけ引き離す。人間関係が希薄になった現代を象徴する災害で、令和がいい時代になるための最初の洗礼」と話した。

さだ 「令和」の英訳は「ビューティフル・ハーモニー(美しい調和)」です。多くの人がハーモニーをつくるには、お互いの心が通じ合っていないとできない。コロナにこれをいきなり問われた気が僕はしています。おそらく人間がお互いのつながり、価値に気づいた時に、ようやく「ビューティフル・ハーモニー」がみんなの心に響いてくるのかなと思います。

コロナ禍がいつまで続くのか分からないが、試練を乗り越えた先には必ず成果があると信じている。

★音楽をどう表現するのか

さだ 僕らの成果は何だろうと考えながら、音楽づくりをしていきたい。どんな時代も音楽は行動より先にある。ヨイショという掛け声で物が持ち上がり、ドッコイショで物が動く。ヨイショとドッコイショは音楽ですから、その音楽を僕ら(アーティスト)がどう表現していくのかということです。

高校、大学は落語研究会で、高座名は「飛行亭つい楽」。軽妙洒脱(しゃだつ)な語り口調に秘められた信念は、揺るぎない。来年4月に古希を、10月にはデビュー50年目を迎える。これからも、いつまでもさだまさしである。【笹森文彦】

▼「さだ丼」の収録曲を編曲した渡辺俊幸氏

さださんと45年以上、共に過ごして来て最も強く感じるのは、彼がとても大きな愛の人だということです。例えば彼の絶妙なトークにしても、聴衆の方々がそれを聞いて笑うことで元気になってほしいという彼の願いの強さが、それに磨きをかけていると感じます。23歳という若さで文学的な香り高い言葉をつづって「無縁坂」という母を想う歌を書き、25歳で「案山子」という家族を想う作品を書いた彼ですが、現在に至るまで恋愛以外の意味でも人が人を想うことの美しさ素晴らしさを感じさせる数多くの作品を生み出して来ました。アルバム「さだ丼」には、そのような作品が多数収録されています。分断と対立が加速化する今の時代、ぜひ聞いていただきたい1枚です。

▼「さだ丼~新自分風土記III~」収録曲

(1)北の国から~遙かなる大地より~(82年) フジテレビ系「北の国から」テーマ曲

(2)案山子(77年) フジテレビ系「故郷~娘の旅立ち~」主題歌※1

(3)道化師のソネット(80年) 映画「翔べイカロスの翼」主題歌

(4)無縁坂(75年) 日本テレビ系「ひまわりの詩」主題歌

(5)桃花源(77年) TBS系「せい子宙太郎」主題歌

(6)天までとどけ(79年) フジテレビ系「時よ、燃えて!」主題歌

(7)にゃんぱく宣言(19年) AC JAPAN CMソング

(8)関白宣言(79年) 映画「関白宣言」主題歌

(9)あなたが好きです(83年) 映画「ふじぎな国・日本」主題歌

(10)聖夜(80年) 映画「二百三高地」挿入歌

(11)しあわせについて(82年) 映画「ひめゆりの塔」主題歌/ダスキンCMソング※2

(12)SMILE AGAIN(92年) 雲仙・普賢岳被災地チャリティーソング

(13)奇跡2021(20年) SOMPOケアCMソング※3/TOYOTAニューカローラCMソング※4

(14)いのちの理由(09年) 浄土宗宗祖法然上人800年大遠忌記念曲

   ※1は11年、※2は89年、※3は現在、※4は91年

◆さだまさし

本名・佐田雅志。1952年(昭27)4月10日、長崎県長崎市生まれ。幼少からバイオリンを習う。73年にフォークデュオ・グレープとしてデビューし「精霊流し」「無縁坂」がヒット。76年にソロ転向。「雨やどり」「防人の詩」「風に立つライオン」「主人公」などヒット曲多数。「秋桜」(山口百恵)など楽曲提供も多数。小説、童話、エッセーなど作家としても活躍。17年に一般社団法人「風に立つライオン基金」を設立。21年度後期のNHK朝の連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」にラジオ英語講座の人気講師・平川唯一役で出演する。血液型A。

(2021年4月25日本紙掲載)