7月の上演再開後、最後に登場するのが月組。25日に兵庫・宝塚大劇場で、和物レビュー「WELCOME TO TAKARAZUKA-雪と月と花と-」ミュージカル「ピガール狂騒曲」の開幕を迎える。11月1日まで。退団を発表したトップ珠城りょうは、先陣を切って中断していた取材会に臨み、自粛期間、そして今の思いを語った。東京宝塚劇場は11月20日~来年1月3日の予定。

   ◇   ◇   ◇

穏やかな笑みを携え、ほっとしたような様子。取材陣に「皆さん、お元気そうで…ほっとしました」。おおよそ半年ぶりのインタビュー再開の“先陣”を切ったのが珠城だ。3月17日の退団会見以来の“再会”にこう切り出した。

「自粛中は、自分自身を振り返ったり、過去の宝塚作品を見たり…。自分が出ていた作品を今まで見ていなかったんですけども、向き合う時間がとれました。ずっと走り続けていたので、歩みを緩めることができ、お稽古が再開したときに、あらためて『演じることが好き』と思いました。舞台に立てる喜び、表現できる喜びを感じました」

坂東玉三郎監修の和物ショー、シェークスピア喜劇の傑作をもとにしたミュージカルの2本立て。稽古中断前までにショーは完成、芝居もほぼ完成近くまで稽古は進んでいた。

「4カ月の自粛中は、同じ組でもリモートでしか会話できなかった。(稽古再開で)相手の目を見て、呼吸をして、体温を感じながら過ごせるのが、どれだけ幸せなことだったのかを実感しました」

芝居では2役を演じる。

「(2役の)男女なのか、その内訳は開幕までは言えませんが、基本は、見た目が似ているということで、おかしくなっていく展開です。2役は初めてで、これは宝塚でやるから成立すること。実際、演じながらおもしろい。コメディー作品でもありますので、楽しみながら演じております」

ショーは「雪月花」をテーマに洋楽にあわせて日本舞踊を踊る。雪の場面ではビバルディ「四季」から「冬」、月の場面はベートーベンの「月光」、花の場面ではチャイコフスキー「くるみ割り人形」から「花のワルツ」などが流される。

「私たち(月組)は、100周年以来の和物レビュー。今回も、チョンパで幕開けします。華やかさ、きらびやかさ、男役の若衆のあでやかさ…これこそ宝塚にしかないものだな、と」

玉三郎からは「宝塚らしい、美しい、豪華絢爛(けんらん)なものを一緒に作りたい」と言葉を受けた。「雪」では男女の恋模様、「月」は月光をボレロにアレンジして出演者ほぼ総出演し、新月から満月へ-の様が表現されているという。「花」は月城かなとを中心にし、コミカルな側面もある。取材日の前日には、専科の松本悠里が今公演で退団すると発表された。

「(卒業は)どう言葉にすればいいか分からない感情に。松本先生は朗らかで『清く正しく美しく』を体現してらっしゃる方。お会いすると、穏やかな気持ちになり、かつ背筋が伸びる。自分は男役である前に、宝塚歌劇団の一生徒だと思い起こされる気がします」

就任時、廊下で会い、あいさつをすると「あなただったら絶対大丈夫よ」と言われたといい、これまでの支えになった。今回、大先輩を送り出すと同時に、今春入団の106期生が半年遅れで初舞台を踏む。

「(稽古を見て)感動して、涙が出て。謎の親心みたいなのが芽生え…、初舞台の頃の自分も思い出した。純粋にキラキラして、踊れることが楽しい、舞台に立ててうれしい-。初舞台生のまっすぐな気持ちが伝わってきた。これが一番大事な気持ちなんだ-とも思いました」

原点をあらためて認識した。自身の退団発表は、先行きに不安漂う最中の3月17日だった。

「(自粛前に)皆さまにお伝えできてよかった。自分で決めていても、人に言えない期間がもどかしく苦しかった。言えていなかったから、ずっとモヤモヤしていたと思います」

ただ、直後に退団時期が先送りになった。予想外の事態にも「宝塚の男役でいられる時間は増える」と前向きにとらえてもいる。

「私の精神は『なるようになる』と思うタイプ。私ひとりの力ではどうにもならない。割り切っていたので、時の流れに身を任せて。時間があるなら、やってなかった料理をしてみようとか(笑い)」

料理は、元月組トップの先輩、霧矢大夢のSNSから情報を得て「自分で発酵させて、初めてパンも作った」という。「大成功」だったといい「パン作りにはまりそうです」と笑った。ファンと直接会えない期間が続き「早く(舞台で)会いたい」などと書かれた手紙をもらい、励まされた。

2月末の御園座以来の舞台、約半年ぶりだ。歌劇の再開後、月組は登場が最も遅く「生の反応はコメディーの醍醐味(だいごみ)だなと思います」と、珠城自身も心待ちにする。

入団2年目で、新人公演主要キャストに抜てき。男役10年の世界で9年目でトップにスピード就任した。

「思い起こせば研2(入団2年目)から、ほんとにたくさんの経験を。自分が本来持っている物より、与えていただくものの方が大きすぎて、付いていけない部分を感じていた。トップとして年数を重ねるほどに、お客様、世間の目が厳しくなっていくようにも…」

退団会見では「珠城りょう一生徒になった気がした」と明かす。一瞬トップの重責から離れ、思わず涙があふれた。翌日の予定も、起床時間も考えなくていい自粛期間を経て「本来の自分に戻れた」とも感じる。

「不思議だなと思うんですけど、すごく呼吸がしやすくなりました。いい意味でのリセット期間でした」

さらに1段上がって迎える半年ぶりの舞台。「新しいフレッシュで爽やかな空気感が稽古場に漂って(笑い)。『男役、楽しいな』って!」。今の心境を問うと「希望」と即答した。

「見えない敵と、私たちも全世界も闘っていて、でもきっとどこかに希望はある。希望を持って生きていきたいし、お客様にも(舞台を通して)希望をもっていただけたら」

持ち前の明るさで舞台を照らす。輝き、力強さはさらに増す。【村上久美子】

★「WELCOME TO TAKARAZUKA-雪と月と花と-」(監修=坂東玉三郎、作・演出=植田紳爾) 当初は4月開幕で、東京五輪を意識して四季をテーマに企画。自然の美しさ、生まれる心情を描く和物レビュー。坂東玉三郎は宝塚歌劇初監修。

★ミュージカル「ピガール狂騒曲」~シェークスピア原作「十二夜」より~(作・演出=原田諒) シェークスピア喜劇の最高傑作「十二夜」の世界を、芸術家が集ったパリの歓楽街ピガールに移して描く。舞台は、今も残るミュージック・ホール「ムーラン・ルージュ」。多様な秘密を抱える男女による恋の駆け引きを軽妙に描く祝祭劇。同作の宝塚大劇場公演は106期生のお披露目公演。

☆珠城(たまき)りょう 10月4日、愛知県生まれ。08年入団。月組配属。10年新人公演初主演。16年9月、近年では7年目天海祐希に次ぐスピードで月組トップ。本拠お披露目「グランドホテル」や「エリザベート」などに主演。今年3月17日に退団会見を開いた。来年2月14日付予定の退団が、コロナ禍で同8月15日付に。身長172センチ。愛称「りょう」「たまき」。

半年ぶりの舞台への思いを語った珠城りょう(撮影・村上久美子)
半年ぶりの舞台への思いを語った珠城りょう(撮影・村上久美子)