雪組トップ彩風咲奈は「伝統の継承」を胸に、就任から2作目本拠地作に臨んでいる。雪組公演「夢介千両みやげ」「Sensational!」が兵庫・宝塚大劇場でスタート(4月18日まで)。芝居は時代劇の名作に臨み「和物の雪組」魂を、ショーは雪組演出の多かった中村一徳氏の作で「伝統芸能のような雪組のショー」を誓い、センターに立つ。東京宝塚劇場は5月7日~6月12日。

雪組一筋のトップが、伝統の和物に臨んでいる。今作が決まったとき、19年「壬生義士伝」にあたり、前トップ望海風斗から「和物の雪組と言っていただいている。かなりプレッシャーだった」と言われたことを思い返したという。

「いざ、自分が…となった時、やはり伝統を崩してはいけないとすごく…。身の引き締まる思いです」

芝居は山手樹一郎の傑作小説を舞台化。庄屋の息子・夢介が、父に渡された1000両を手に道楽修行へ出る娯楽作だ。道中、夢介は「金」と「優しさ」で騒動を解決していく。

「宝塚では珍しいタイプの主演。歩いているだけで女性が寄ってきて、何げない一言、行動が人を救う」

王子様でも、強くかっこいい王道ヒーローでもない。

「計算しながらお稽古するタイプではないし、割と似ている。心から思ったことを伝えることが多い」

演出の石田昌也氏は彩風らに役柄のイメージを、芸能人やキャラクターに例えて伝えたといい、彩風演じる主人公は「西郷どん」の鈴木亮平だったという。

「大河ドラマで、話は全然違うんですけど、鈴木さんが演じていらっしゃる西郷さんの温かさ、人の良さ、骨格の大きさ、動き方を勉強させてもらいました」

石田氏によるイメージは、朝美絢演じる伊勢屋総太郎が高田純次、夢介に心奪われる女スリお銀は峰不二子だった。「組でも『私は●●』とか、盛り上がっていましたね」と笑う。

和装に三度がさ…。衣装も「風情が舞台上で息づいていけたら。でもやっぱり、宝塚歌劇団の男役が演じる夢介。ショーでも、着こなしはすてきでありたい」と意識。道楽修行の設定にも共感を抱く。

「宝塚男役として16年目に入り、日々が修行。いろんな人に、役にであい、人生を生き…それがすでに道楽修行かなって。日々、幸せで楽しくて、いや~人生っていいなって(笑い)」

ショー演出の中村一徳氏とは雪組は縁が深い。直近では望海風斗、早霧せいな主演作も手がけ「ちょっと、雪組の伝統芸能みたいな」と言う。自身は、宙組から加わった人気スター和希そらと踊る場面もある。

「大劇場公演は(和希が)雪組デビューですが、もうなじみすぎて(笑い)。私も新しい風を受けています。努力をした上で、いい感じに肩の力が抜け、変な力みがない。自然体のパフォーマンス。みんなも、いい刺激になっている」

組全体の成長も実感。トップ本拠地2作目で、下級生から「こんなことできるようになったんだ」と感じた。「私ももっと示していけるよう努めなきゃ」。今作で、綾凰華が退団するなど、組の変化は続く。「今の雪組は今しかない」。彩風自身の男役への向き合い方も変わってきた。

「前作の(CITY HUNTER)冴羽■からガラリと変わって夢介。品格、タカラジェンヌとしての美しさを追求し続けながら、カメレオンのような役者になりたい。宝塚らしい王子様のような役も、今回のような役も。お客様をビックリさせる人間でいたい」

以前は「彩風咲奈の男役はこれ」と確固たる像を求めていたが、今は「柔軟に」と考える。いろんな“顔”を見せ、雪組をけん引していく。【村上久美子】(※■はけものへんに尞)

<やっとお届けできる>

1月の東京公演が中止になった「ODYSSEY-The Age of Discovery-」は、7月21日~8月7日に梅田芸術劇場で上演される。彩風は「お客様のもとに届かないことには、いくらお稽古しても、完成していない。やっとお届けできると思うと、今から胸がいっぱい」と喜んだ。また、次作本拠地作は、清朝末期の中国・紫禁城を舞台にした「蒼穹の昴」に決まった。初の舞台化に「私も楽しみ」と話している。

◆大江戸スクランブル「夢介千両みやげ」(脚本・演出=石田昌也) 「桃太郎侍」などを生み出した山手樹一郎の代表作のひとつを舞台化。小田原の庄屋の息子、夢介(彩風咲奈)はけんか嫌いでお人よし、心優しき青年。父から1000両を使っての道楽修行を言い渡され江戸へ向かう。道中、女スリお銀(朝月希和)に懐を狙われるが、お銀は夢介に一目ぼれし、押しかけ女房に。遊び人飛脚屋の若旦那伊勢屋総太郎(朝美絢)らが起こす騒動を、夢介が「金」と「優しさ」で解決していく。

◆ショー・スプレンディッド「Sensational!」(作・演出=中村一徳) 「命」「愛」「希望」をテーマにしたダンス・ショー。

☆彩風咲奈(あやかぜ・さきな)2月13日、愛媛県生まれ。07年入団。雪組配属。新人主演は5回。長身で脚長、小顔とスタイルでも注目。17年「CAPTAIN NEMO」で東上初主演。昨年4月トップ就任。同6月「ヴェネチアの紋章」全国ツアー、同8月「CITY HUNTER」「Fire Fever!」で本拠地お披露目。身長173センチ。愛称「さき」。