イケメン俳優。一般的に流通している呼び名だが、本人たち、まわりの人たちはあまり好まない呼び方らしい。顔だけが取りえで、演技は二の次といったイメージがあるのだろうか。個人的には、イケメンだから俳優を目指したよね、と突っ込みたいところではあるが。

少し前にとある俳優が「演技派俳優」の呼び名に警鐘を鳴らしていた。そもそも演技のプロが俳優であるのにバカにしているのかと。ごもっともである。しかし、(得意の)サッカーで例えると演技派は選手の中でも特に技術がある選手、テクニシャンといったところだろうか。実力派は流れが読めるプレーメーカー、となるとイケメンは足が速いとかの身体能力系かと…いや、無理があるな。いずれにしろ、人気商売なのはたしか。誰かが見たい、使いたいと思わなければ成立しない職業なので、悪い言い方でなければ好意的に捉えて欲しいところである。

現在、イケメン俳優まわりはさまざまな変化を遂げている。王道なのは、仮面ライダーや戦隊、いわゆる特撮モノ出身。菅田将暉や福士蒼汰、竹内涼真が仮面ライダー、志尊淳、山田裕貴、横浜流星などは戦隊出身である。綾野剛や松坂桃李、玉山鉄二までもとくれば、相当な数となる。すでに彼らはイケメン俳優とは呼ばれず、人気俳優や実力派俳優、もしくはスターである。

彼らがなぜ売れるのか。一時はお母さん世代から絶大な人気が出ると言われていたが、関係者に聞いたところ、とにかく1年間毎日撮影があることが大きいらしい。演技力はもちろん、主演としてのプロ意識を若い頃にしっかりと学べるのではなかろうか。才能ももちろんだが、経験がより彼らを成長させるのではないかと思う。

そして、特撮モノに続き、次にブレークが期待できるのが2・5次元舞台に出演している俳優、通称「2・5次元俳優」である。最近バラエティーや深夜ドラマでよく見かけるが、彼らの主戦は舞台である。漫画やアニメの2次元とリアルの3次元の間をとって2・5次元。最初に聞いたときは、何それ?と思ったものだが、今となっては「刀剣乱舞」など社会現象にもなる一大コンテンツである。

実際に彼らと仕事をする機会も多い。彼らもまた、若いころから座長として舞台に出ずっぱりである。今はまだそこまでだが、20年前の特撮俳優の立ち位置を見ると、近い将来芸能界を席巻している可能性は大いにある。

そこで今回紹介するのは人気2・5次元俳優の北村諒(30)。「弱虫ペダル」シリーズをはじめ、「刀剣乱舞」「あんさんぶるスターズ!オン・ステージ」「おそ松さん on STAGE~SIX MEN`S SHOW TIME~」「僕のヒーローアカデミア」と人気2・5次元舞台にひっきりなしに出演。特徴的なのが、多くの作品において、物語の中でも特にイケメン役をやっていることが多い。主役よりも人気のニヒルな役といえばいいのだろうか。まさにイケメン俳優の中のイケメン。

そして、現在公開中の監督作品「元メンに呼び出されたら、そこは異次元空間だった」にも出演してもらっている。撮影やイベント、舞台あいさつなどで話す機会も多いが、とにかく好青年。元々カットモデルや読者モデルから始めて芸能界入り。演技の経験もあまりないまま人気舞台に立つことで、一時は「鑑賞用イケメン」とやゆされることもあったらしいが、そんな経験もあるのか、お芝居に対して真摯(しんし)に向き合う姿はとても好印象。

毎回違う役どころを演じ切り、今となっては2・5次元舞台において欠かせない俳優の1人である。業界全体でみると今はまだイケメン俳優の域を出ていないと思うが、近いうちに人気俳優、そしてスターに上り詰める存在だと期待している。

◆谷健二(たに・けんじ)1976年(昭51)、京都府出身。大学でデザインを専攻後、映画の世界を夢見て上京。多数の自主映画に携わる。その後、広告代理店に勤め、約9年間自動車会社のウェブマーケティングを担当。14年に映画『リュウセイ』の監督を機にフリーとなる。映画以外にもCMやドラマ、舞台演出に映画本の出版など多岐にわたって活動中。また、カレー好きが高じて青山でカレー&バーも経営。今夏には最新作「元メンに呼び出されたら、そこは異次元空間だった」が公開。

(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画監督・谷健二の俳優研究所」)