春ドラマの台風の目となったテレビ朝日「おっさんずラブ」最終回(6月2日)の視聴率です(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。ネットやSNSでの大反響を受け、自己最高での有終となりました。

 おっさんがおっさんに恋をし、おっさん同士でおっさんを取り合うラブコメという斬新なチャレンジが、未知の感動と社会現象をもたらした異例の展開。私も全話を夢中で見た1人ですが、振り返るとこの作品は、内容以外もいろいろ異例ずくめでした。

 ◆視聴率3%台で世界トレンド1位

 視聴率が番組の勢いや視聴者満足度と一致しないことはよくありますが、「おっさんずラブ」はその典型。深夜枠とあって、1~6話の視聴率はそれぞれ2・9%、4・2%、3・8%、3・5%、3・9%、3・9%。録画視聴を合わせても8%に届かないのですが、テレビ誌やデータ会社が独自に集計する視聴者満足度は今期ぶっちぎり。視聴熱の高さがSNSを押し上げ、「はるたん」「牧くん」「春牧」「フラッシュモブ」などあらゆる関連ワードがランキング入りしました。激アツな感動路線となった6話と最終回は2週連続でツイッターの世界トレンド1位。最終回のツイート数は1日で28万件を突破し、「逃げ恥」超えを果たしました。

 ◆ヒロイン不在のPR試写会

 田中圭、吉田鋼太郎、林遣都の三角関係を描くドラマにもかかわらず、事前のPR試写会にヒロイン役の吉田鋼太郎が来ないというゆるゆるな展開。舞台げいこのためVTRでメッセージを寄せ、なぜか強風の屋外から「ヒロイン役の吉田鋼太郎です」。カオスな展開に会場がどっと沸きました。ステージでは、田中圭さんが「先日、遣都くんとカラオケに行った時に…」と思い出し笑いが止まらなくなり、お客さん思いの林遣都さんが「身内だけ盛り上がるトークはやばいですよ」と笑ってフォロー。今思えば、ポンコツな春田としっかり者の牧くんというドラマの関係性そのものの光景でした。

 ◆プロデューサーは連ドラ2作目

 制作したプロデューサーが連ドラ2作目の若手というのも痛快でした。16年にバラエティーからドラマ制作部に異動したばかりの貴島彩理さん(28)。連ドラは昨秋の「オトナ高校」に続き2作目となります。「ストーリーやキャスティングを考えるのが楽しくてしょうがない」と創作意欲に燃えていて、ドラマ界に漂いがちな悲壮感がないのが新鮮。「1話完結より、『この後どうなるの!?』と来週が待ち遠しくなる連ドラを作りたい」「私はオリジナルでいきます。原作ものはよそにお任せすればいいかなって」。作りたいものが明快な若手の剛速球を、受け手がしっかりキャッチしたのが今回のブームだったと思います。ちなみに、父親はTBSドラマ制作の重鎮、貴島誠一郎さん。

 ◆深夜ドラマに社長が言及

 「おっさんずラブ」は、5月の角南源五社長の定例会見でも話題になりました。深夜枠に関して社長が言及するのは極めて異例です。この時も配布資料は「特捜9」など刑事ドラマ3本の好調に関するものでしたが、記者からの追加質問に「人をピュアに好きになるところが新鮮で好評をいただいている」と大まじめに回答。登壇社も新聞各社も基本おっさんばかりの大会議室に「おっさん」ワードが響き渡り、ゆるい笑いも起きました。特に同局の定例会見は他局に比べて厳格ムードで進むだけに、なごんだ光景もなかなか異例でした。

 ◆最終回5・7%の有終

 視聴率としては決して高くない5・7%で「自己最高」「有終」とネットニュースが大騒ぎになること自体が異例。とはいえ、6話まで3%台だっただけに、最後に5・7%にジャンプアップしたのはやはり驚きました。「世界1位」「『逃げ恥』超えなるか」などSNS周りの記録がネットニュースとなり、次々と拡散されていった流れは「逃げ恥」と似ています。

 実際、最終回は有終にふさわしい、名ぜりふと名場面の宝庫でした。「家族のこととか世間の目とか、いろんなこと考えたら巻き込むのが怖くなった」という牧くんの優しさ、「お前がそうやっていつまでも春田と向き合わないから俺はお前をあきらめきれない」という主任の豪快な壁ドン、「神様の前でうそはつけないね」と神様の前でうそをつく部長の純愛、「俺と結婚してくださぁぁぁぁぁい!!!」という春田の絶叫プロポーズとラストのダブルキス。なんかもう、不思議な勇気が沸いてくる、最高のラブコメてした。

【梅田恵子】(B面★梅ちゃんねる/ニッカンスポーツ・コム芸能記者コラム)