テレビバラエティーを10年間定点観測する放送作家、松田健次氏
テレビバラエティーを10年間定点観測する放送作家、松田健次氏

テレビバラエティーはここ数年打ち切りが相次ぎ、視聴率的にも苦戦して久しい。若者離れ、コンプライアンスの呪縛、サブスクの登場など、制作現場を取り巻くキーワードはこの10年でシビアさを増している。本当にテレビは“オワコン”なのか。バラエティー番組激動の10年を定点観測した「テレビの『すごい!』を10年記録」(双葉社)の著者、松田健次氏(56=放送作家)に聞いた。

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-著書に収めた301本の「すごい」番組から見えてくる、この10年のバラエティー界の変化とは。

松田 お金と人がどんどん減る、という問題が大きく作用した10年ですよね。人口が減れば視聴者も減る。LINEやインスタなど、スマホ周りのライバルの出現でさらにお客さんを持っていかれ、人減るわ、お金減るわ、ライバル増えるわ。そういう変化の速度がなだれ落ちるようだったのがこの10年だと思います。「笑っていいとも!」(14年終了)や「めちゃイケ」(18年終了)など、各局の看板番組が次々に終わったのも象徴的です。

-看板番組を打ち切って、この10年、どんな番組が作られたのでしょうか。

松田 少ない予算で何ができるかという“低予算大喜利”みたいな10年ですよね。そうすると、もともと低予算&アイデア力で勝負してきたテレビ東京はやはり強い。街で声をかけて、素人のすごい人生エピソードを拾ってくる「家、ついて行ってイイですか?」(15年~)などは、そのお手本という感じです。突き抜けたアイデアが1本あれば、ちゃんと目に留まって評価を得られるという。

-素人さんをうまく使ってキャスティングにお金をかけないのは、低予算時代の理想型なのかもしれません。

松田 ギャラのかからない人に目が向いたのもこの10年。実力のある看板MCが1人いれば、あとは無名タレントでもOKという座組みです。終了しましたが、旬を過ぎたタレントさんをうまく料理する「有吉反省会」(日テレ)や、刺激的な人材であれば知名度問わずの「アウトデラックス」(フジ)など。あとは、ちょっとくすぶっているタレントさんたちを再発見する系。とにかく明るい安村さんなどが再ブレークした「有吉の壁」(日テレ)は、そういう立ち位置の人材がテレビに出やすい環境を作ったという意味でも画期的だと思います。

-20年からは新型コロナにも直面し、バラエティー業界も苦労が絶えません。

松田 ディスタンスをとって人を使わずに、という工夫をずっと続けていて、苦労がしのばれます。でも、逆境の時こそ真価を発揮したケースもあるんですよ。先ほどの「家ついて」などは、緊急事態宣言で生活が変わった人にカメラを向けるということをどこよりも早くやっていて、テレ東のしぶとさを感じました。「有吉の壁」も、リモートで芸人さんをつないだ爆笑の神回をどこよりも早くやっていました。

-コンプライアンスの強化や、「痛みをともなう笑い」への放送倫理・番組向上機構(BPO)の改善提言など、演出をめぐる制限も日々増しています。

松田 その混乱はよく耳にしますが、表現はどんどん変わっていくもの。昭和にはOKだった女性のヌードが時代とともにとっくに消えたのと同じ。今までOKだった笑いがアウトになったと嘆くより、その時代時代のルールで大喜利に参加するしかないのだと思います。逃げ道の中から何かが生まれるかもしれないし。個人的には「誰も傷つけない笑い」というのもさじ加減だと思うんですよね。やる方も見る方も、ボクシングみたいにルールを分かった上で楽しめればいいのですが、そういう共通認識みたいなものが今はない状態なので。

-この10年、作られては消えていく番組をいくつも見てきたと思いますが、長続きせず消える番組に共通点はありますか。

松田 それは分かりませんが、僕がこの本で取り上げなかったのは、守りに入っている番組ですね。スポンサーの意向、編成の意向など、いろんな人のバランスをとりすぎて、どこかで見たような番組。そうやって手堅く作るのも職人芸なのかもしれませんが、テーマ性で戦っている「水曜日のダウンタウン」みたいな方に、やはり魅力を感じるんですよね。

-視聴率も落ち、長いことオワコン扱いされているテレビですが、SNSの話題の中心はやはりテレビ。そういう意味では、オワコンではない気もするのですが。

松田 今は「オワコンではない」と結論づけるのも難しい。あと10年見てみないと分からない過渡期なのだと思います。ただ、確実に言えるのは、テレビバラエティーはなんだかんだ今日本でいちばん面白いものを作れる人が集まっていて、トップオブトップの表現が見られるということ。全体的に勢いが下がっていても、「これ面白かった」という放送は必ずある。今のうちに見ておかないと、10年後には見られなくなるものも多くあると思うので、これからも定点観測したいと思います。

◆松田健次(まつだ・けんじ)1966年2月13日、東京都生まれ。埼大卒後、高田文夫門下で放送作家に。ニッポン放送「高田文夫のラジオビバリー昼ズ」など、主にラジオ畑で番組構成。著書に「テレビの笑いをすべて記憶にとどめたい」(白夜書房)など。「蘭~緒方洪庵 浪華の事件簿」(18年、新橋演舞場)など舞台脚本も手掛ける。

「テレビの『すごい!』を10年記録」(双葉社)
「テレビの『すごい!』を10年記録」(双葉社)

◆「テレビの『すごい!』を10年記録」(双葉社) 読売新聞で月刊連載中のテレビコラムを書籍化。12年から全10年分を収載。各年度ごとに、12年の「クイズ☆タレント名鑑」(TBS系)から、22年「プロフェッショナル 仕事の流儀」まで、計301本の番組を批評、アーカイブしている。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)