1月期の冬ドラマが出そろった。各局でお父さん主人公が多発し、不適切なお父さん、パンツで多様性を悟るお父さん、余命を知らされたお父さん、マエストロなお父さんなど、個性的なお父さんが見応えを競っている。勝手にドラマ評57弾。今回も単なるドラマおたくの立場からあれこれ言い、★をつけてみた(深夜枠、シリーズものは除く)。

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月9ドラマ「君が心をくれたから」(C)フジテレビ
月9ドラマ「君が心をくれたから」(C)フジテレビ

◆「君が心をくれたから」(フジテレビ系、月曜9時)永野芽郁/山田裕貴

★★★☆☆

初恋の人を死から救うため、死神と取引したヒロインの宿命ファンタジー。3カ月の間に、視覚、聴覚などの五感をひとつずつ奪われるって、こんな交換条件をのむ理由が「不幸な私に初めて心をくれた人だから」ではいい人すぎかと。男性のために自己犠牲する女性が美しいという制作陣の女神信仰に傷つく一方で、見たことがないドラマを見たいという意味ではすごいチャレンジでうれしくもある。4話ですでに味覚と嗅覚を失い、主人公が限りある人生の輝きに気づき始めたところ。いずれ知る山田裕貴、ヒロインと事情がありそうなあの世使者、余命2カ月の祖母がどんなミラクルを起こすのか。

月10ドラマ「春になったら」(C)フジテレビ
月10ドラマ「春になったら」(C)フジテレビ

◆「春になったら」(フジテレビ系、月曜10時)奈緒/木梨憲武

★★★★☆

「3カ月後に結婚します」の娘と、「3カ月後に死んじゃいます」の父が“その時”を迎えるまで。90年代の憲武ドラマを見てきた世代としては、変わらない演技力がうれしい。大声キャラの中に、娘への愛情や照れくささ、残していく切なさが生き生きとあり、この人にしかない抜け感が、爆笑のちホロリの役に合う。奈緒との丁々発止が本当の父娘のようで、「死ぬまでにやりたいことリスト」をともにしながら、あれこれ父娘の物語が明らかになるのもすてき。2人きりの海のシーンが美しく、品のある映像は今期イチ。終わっていく命と、生まれてくる命の助産師という対比も今後効きそう。

◆「マルス-ゼロの革命-」(テレビ朝日系、火曜9時)道枝駿佑/板垣李光人

★★★☆☆

「この世界をぶっ壊す」。なぞの転校生ゼロが、落ちこぼれ6人と動画集団マルスを結成し、腐った大人たちを退治する。「ぼくらの七日間戦争」を見た世代には青春クーデターものは懐かしいし、今期はどこもお父さんドラマばかりなので、若手たちが頑張っている作品は応援したい。キラキラな道枝駿佑がギラギラな新境地。声が出るので、宣戦布告モードがサマになるのは意外な発見。各話の悪党や成敗のアプローチがややチープだが、主演がちゃんと魅力的に見えるので気にならない。うまい若手をそろえたチームが宿敵江口洋介にどう迫っていくか、最後まで見ます。

火曜ドラマ「Eye Love You」(C)TBS
火曜ドラマ「Eye Love You」(C)TBS

◆「Eye Love You」(TBS系、火曜10時)二階堂ふみ/チェ・ジョンヒョプ

★★★☆☆

心の声が聞こえてしまうテレパスの女性社長と、韓国人インターンの恋。心の声が韓国語のため、胸の内が分からずドキドキ、というキュン設定はラブコメとして新鮮なだけに、お姫様抱っこ、シャボン玉ごっこ、ぬいぐるみごっこなど、ファンタジーとメルヘンを混同した1話がもったいない。本家の多彩なスキルで画面を支え、2話に持って行ったチェ・ジョンヒョプのうまさに頭が下がる。「好きになってほしくてやっています」。年下男子のストレートな感情表現や、コメディーを入り口にシリアスの沼に引っ張る展開など、韓ドラテイストで枠の再生なるか。12年前の事故をめぐる不穏が動き始めたので、ひとまず3で待機。

水曜ドラマ「となりのナースエイド」(C)NTV
水曜ドラマ「となりのナースエイド」(C)NTV

◆「となりのナースエイド」(日本テレビ系、水曜10時)川栄李奈/高杉真宙

★★☆☆☆

おむつ交換やベッドメイキングなど、医療現場の縁の下を支えるナースエイドが患者さんを救う。医師よりデキるパラメディカルもののジャンルだが、実は医師免許を持っているというスペシャルな視点であれこれ見抜いてしまい、ナースエイドである必要がいまひとつ。「必ず助かると言ってあげてください!」とムキになったり、患者の本心を勝手に明かしたりで、令和のヒロインとしてもうワンランク上がってほしかった。「恋つづ」路線のラブ、人を見下す医者とのコント、姉の事件の暗い真相など、心の動線がすごいことに。恒松祐里、戸塚純貴ら患者さん役ゲストのうまさが光る。

水10ドラマ「婚活1000本ノック」(C)フジテレビ
水10ドラマ「婚活1000本ノック」(C)フジテレビ

◆「婚活1000本ノック」(フジテレビ系、水曜10時)福田麻貴/八木勇征

★★★☆☆

売れない小説家が、かつて自分を捨てたサイテー男の幽霊とバディを組み、本気の婚活。1年以内に成仏したい幽霊があれこれ世話を焼き、クズの論理から見る婚活はいい視点かも。いい人だけど生理的にダメだったという理屈じゃない部分も描き、自己嫌悪のヒロインも、励ます幽霊も、頑張っていて応援しがいがある。3時のヒロイン福田麻貴の演技が2話あたりから自然になり、普通の婚活世代としてパッと見がリアル。幽霊のクズ発言に「うぜえな」「腹立つな」のツッコミでいいコンビ。暗め、重めの作品が多い中、カラッと笑えて楽しく、中身は視聴率ほど悪くない。

木曜ドラマ「グレイトギフト」(C)テレビ朝日
木曜ドラマ「グレイトギフト」(C)テレビ朝日

◆「グレイトギフト」(テレビ朝日系、木曜9時)

★★☆☆☆

新種の殺人球菌をめぐる大学病院の権力闘争。「チーム・バチスタ」みたいな分厚い理系ミステリーを期待したが、ヘタレキャラの主人公(病理医)が、顕微鏡のぞいて一発で殺人球菌発見というコントな味わいでびっくり。悪党に培養を指示され、次のシーンで「できました」の反町、殺人球菌入り容器を素手で持ってきちゃう反町、ただの事務棚に保管して盗まれちゃう反町。慣れてしまうと逆に面白いかも。グレイトじゃない新境地が、油断ならないパワーゲームをどう生き抜くか。心の声の多用は賛否あるが、「セ~フ」からの「たぶんセ~フ」はまんまと笑わされた。

木曜劇場「大奥」(C)フジテレビ
木曜劇場「大奥」(C)フジテレビ

◆「大奥」(フジテレビ系、木曜10時)小芝風花/亀梨和也

★★★☆☆

NHK「大奥」の直後というタイミングで本家「大奥」が20年ぶりに復活。えぐい権力闘争と壮大なラブストーリーがずっしりの過去シリーズと比べると、序盤がいじめや悪口ばかりで大奥実力者たちの小物感がすごい。レベル1から始まる大奥RPGとはいえ、将軍の正妻が3話でもレベル1のまま苦戦しているのはちょっと遅いかと。ズタズタにされた懐紙入れ300個を一晩で作り直す頑張りに将軍の心が少し動き、いきなり「少子化」「格差社会」「女性活躍社会」という令和な政治課題を共有し始めた。この2人がどう心を通わせ、敵と戦っていくか。民放が時代劇をやる心意気は買いたい。

金曜ドラマ「不適切にもほどがある!」(C)TBS
金曜ドラマ「不適切にもほどがある!」(C)TBS

◆「不適切にもほどがある!」(TBS系、金曜10時)阿部サダヲ/仲里依紗/磯村勇斗

★★★★★

昭和からタイムスリップした意識低い系おやじがコンプラ社会をかき回す。「何だよ、寄り添うって。気持ちわりっ」「頑張れって言っちゃダメなの?」「働き方くらい自分で決めさせろ」「昭和が悪みたいに言うけどさ、少なくとも景気は今より良かったぜ」。正論振りかざす相手を極論で翻弄(ほんろう)する宮藤官九郎ワールドが痛快で、圧倒的なオリジナリティーと言葉の力にげらげら笑う。令和から昭和に飛ぶ側のリバーシブルも効き、働いたり、恋したり、家族を思ったりという根っこはどの時代も変わらないのだとしみじみ。説教臭くなりそうな核心部分はミュージカルで。ムッチ先輩、磯村勇斗は今期の助演男優賞。

土ドラ「おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!」(C)フジテレビ
土ドラ「おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!」(C)フジテレビ

◆「おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!」(フジテレビ系、土曜11時40分)原田泰造/中島颯太

★★★★☆

古い価値観で会社でも家庭でも浮くアラフィフが、2回り以上も年下の友達ができたことで自分をアップデート。昭和の価値観フルスイングのTBS阿部サダヲとは逆で、こちらはさまざまな価値観に触れながら人生をちょっとカラフルにしていく、七転び八起き系の味わい。LGBTQ、推し活、二次元ラブなど、毎回のテーマも自然で、何をはこうと個人の自由である「おっさんのパンツ」から多様性に開眼した3話に笑った。「自分でも分からないことを人に決めつけられるのはしんどい」。できすぎなくらい人間力あふれる大地くん(中島颯太)のせりふは、すべてアンダーラインを引きたい。

日曜劇場「さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~」(C)TBS
日曜劇場「さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~」(C)TBS

◆「さよならマエストロ」(TBS系、日曜9時)西島秀俊/芦田愛菜

★★★☆☆

ワケあって帰国した天才指揮者と、あるトラウマで音楽をやめて市役所で働く女性バイオリニストが、存続危機の市民オーケストラを救うため、「3カ月で満員」のミッションに挑む。設定が昨年の日テレ「リバーサルオーケストラ」(門脇麦×田中圭)とまるで同じで、既視感との闘いに。BGM、練習風景、毎回3分以上見せる胸アツの演奏シーンなど、音楽がふんだんにあったリバオケに比べ、軸足が「父と娘」のホームドラマにあり、音楽が少ない。後発なのでもっと攻めてほしかったが、1話の選曲が「運命」。リバオケ1話の「ウイリアム・テル序曲」の感動を超えてきてほしかった。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)