俳優中井貴一(55)が、ニッカンスポーツコムの単独取材に応じた。今回は公開中の「花戦さ」(篠原哲雄監督、公開中)をはじめとした本格的な時代劇を作り続ける意義について、熱い思いを吐露した。

 11年にTBS系「水戸黄門」が終了し、民放の地上波から時代劇のレギュラー番組がなくなった。セットやかつらなど美術の費用もかさみ、制作費は現代劇よりかかる一方、視聴者の年齢層は高く、スポンサーがつきにくいという事情が、その背景にあるという声は少なくない。劇場公開する映画においても、観客はシニア層が中心で近年、本格的な時代劇は興行で苦戦するケースが少なくない。

 その中、中井は14年に「柘榴坂の仇討」に主演。京都で日本の時代劇を生み出してきた職人たちと、骨太な時代劇を真正面から作り上げた。「花戦さ」も京都の各所でオールロケが敢行された。中井は本物の時代劇を作り、残さなければならない時期だと訴える。

 中井 日本が時代劇を作り始めた頃の映像を見て育った後輩たちは新しい、少し崩した時代劇を作ります。さらに後輩の人たちも「客が見なくなったから、今の時代に合わせようよ」と、また崩した時代劇を作っていく…ということが連綿とつながって、大崩れした時代劇しか残っていないわけですよ。原形をとどめない時代劇を、お手本とした場合、ちゃんとした時代劇を作ることが出来る人がいなくなる…そこを危惧しています。もういっぺん、振りだしに戻って所作、籠、かさの1つ、1つをきっちり再現して「これがベースなんだ」というものを提示しないと、もっと、もっと時代劇が衰退していく。時代劇のお手本、見て勉強しようというものを作っておかないといけない時期に来ていると思うんですよ。

 近年、役者がまげをつけ、侍の格好はしているものの、内容は現代の社会の出来事を置き換えたような“時代劇コスプレ”的な作品が作られ、興行的に結果も出し、製作が続いた。

 中井 僕は人間が社会を形成していく上で、大きな矛盾があるといつも言うんですが、当たるという経済効果だけを見て作品を作っていくと、この先、絶対に失敗する。時代劇本来のものが、どんどんダメになっていくんですよ。お金が回らないと成り立たない、映画も作ることが出来ないというのはあるんですけど、そこだけに左右されていったものに名作は出来ない。だから、矛盾をクリアに出来る何か…システムを構築していくことが1番、後世に残せることなんだろうと思うんですよね。何かがダメって、一時的なこと、時代の流れも絶対にある。僕らがデビューした時なんて、日本映画が最低、最悪と言われ、アイドルの映画しか当たらないみたいな時期でした。そこから、どんどん努力して、日本映画が見られ、本数も出来るようになってきた。ところが最近(映画は)アニメばかりになって…。本質的なことを見誤ると、他の副作用が併発すると思っています。

 次回は中井が、時代劇復興のために必要なことを語る。【村上幸将】